90日のシンデレラ
 そもそもが、何について話をしていたのか?
 一連の流れに翻弄されて、自分で振っておきながら真紘はなかなか出発点が思い出せない。

 「嫌?」

 即答できない真紘に、畳みかけるように瑠樹が訊く。瑠樹のセリフが一番最初のものに戻っていた。もちろん真紘に考える隙を与えないように、瑠樹は結論を急がせる。こんな瑠樹の策略に、真紘は気が付いていない。

 「嫌というか……」
 「じゃあ、いいね。ありがとう」

 まだまだ思考の最中の真紘は、いい淀む。そこを巧みに瑠樹がすり替える。そう、真紘の返事は『イエス』なのだと。

 少し考える時間をくださいといいたかったが、真紘にはできなかった。
 なぜなら、真紘を見上げて「ありがとう」という瑠樹の顔が、とても嬉しそうな笑みであったから。
 イケメンの破顔一笑は、キュン死に相当する。もし真紘が「ちょっと待って」といおうものなら、この笑みは消えてしまう。容易に想像ができる。自分のセリフでこの笑みを手離してしまいたくない。

 もう話は済んだとばかりに瑠樹は立ち上がった。そして、自分の椅子を真紘の隣にぴたりとつけて、迷わず隣に座る。ひじ掛けのない椅子がふたつ並べば、もうそれはベンチである。椅子がぴたりとついていれば、そこに腰掛けるふたりだってそう。

 「真紘、アイス解けちゃうよ」

< 158 / 268 >

この作品をシェア

pagetop