90日のシンデレラ
 カレシがシャワーを浴びている間、真紘は押し寿司の包みを開けた。それをふたりで選んだ長皿の上に寿司を並べ、遅い夕食のセッティングをする。
 この寿司を食するのは、瑠樹ひとり。真紘はとっくに夕食を済ませていて、もう風呂だって済ませてある。明日の仕事の準備をしていたところに、瑠樹が帰宅したのである。
 夕食を済ませてあるとしても、少しぐらいならいいだろう。真紘は真紘で瑠樹の夕食に付き合うために、自分のつまみを用意した。

 「あー、さっぱりした」

 シャワーを終えた瑠樹が、髪を拭きながらリビングダイニングへやってくる。湯に濡れた茶色の髪は、水分の重みでぺっちゃんこだ。あのふんわりウェーブが消えていた。そう、ここにいるのはオフタイムの瑠樹である。

 (この姿を知っているのは、私だけなんだよね~)
 (この緩い雰囲気も妙に色気があって、イケメンてホントに何をやっても様になるなぁ~)

 スーツからラフなルームウェアに着替えた瑠樹をみて、こっそり真紘は悦に入る。こんなリラックスモードの瑠樹を知るのは、自分だけ。これはカノジョだけの特権なのである。

 「お茶、淹れるね」
 「熱いの、お願い」

 想定通りの返事が返ってきた。瑠樹がシャワーを浴びている間に沸かした湯で、真紘は玄米茶を入れた。
 瑠樹は真夏でも、一日の終わりに温かい飲み物をほしがる。これも、瑠樹とこんなふうに過ごすようになってから知ったこと。
 シンプルなフリーカップ、これもふたりで一緒に購入してきたものだ、に注いで、どうぞと差し出した。

 「サンキュ、あー、腹に染み入るわ」

 一口すすってから瑠樹はオッサン臭いセリフを吐いた。そうして、盛り付けられた押し寿司を食べていく。
 瑠樹がガツガツと食する横で、真紘も自分のつまみ、小分けされたナッツである、を口に運ぶ。

< 198 / 268 >

この作品をシェア

pagetop