90日のシンデレラ
 「明日は、どういう予定ですか?」
 「半日代休を取ったので、午後から本社。ゆっくり寝てようと思うけど、もし起きれたら一緒に朝ご飯を食べようか」

 ということは、今晩はここに泊まっていくということだ。
 瑠樹はふらりとこの部屋にやってきて、着替えと仮眠だけで立ち去るときもあれば、今みたいに滞在をしっかり宣言するときもある。今回は後者。
 明日の真紘は通常勤務だけど、今から出勤時まで瑠樹を独占できるのだ。

 「無理しなくていいよ。今回は長めの出張だったんだから」
 「だから、できたらね」
 「はーい。じゃあ、期待しないで待ってますね」

 会えた日には、こんなふうに語らいをする。瑠樹のハチャメチャな行動に真紘はあたふたするのだが、それ以外の時間はどこかスロー。
 付き合いはじめてまだ一ヶ月にならないふたりだが、不思議なことに長年連れ添ってきた連れ合いのような空気を共有していた。

 瑠樹は常に真紘の部屋に寄るわけではない。郊外の本当の自宅に帰るときもある。そのときそのときの仕事の進行具合に合わせて、ここに来たり来なかったりで……
 これ、同棲しているといえば、そんな感じもする。
 でも、正確な意味では違うともいえる。
 現に食事をともにするけれど、瑠樹は真紘に家事を強要しない。例えば、洗濯。バスタオルこそ拝借するが、残りの自分の洗濯物は律儀に自宅へ持って帰る。風呂についても、いつもシャワーですます。湯船にはつからない。どこか、間借り生活時分のスタイルを瑠樹は残していた。

 「それと、これ」

 あっという間に押し寿司を平らげると、瑠樹はブリーフケースから書面を取り出した。瑠樹の出張前に提出した真紘のレポートである。今回も出張先で目を通していた。
 受け取れば、相変わらず赤ペンが痛々しい。
 大村女史が落選してからこっち、真紘は企画開発研修と並行して四回目の選考会に向けてコンペ案件を進めている。コンペも四次選考ともなれば、瑠樹の指導は一段と厳しくなっていた。

< 199 / 268 >

この作品をシェア

pagetop