90日のシンデレラ
 「おはようございます」
 「おはよ。時差ボケで早々に目が覚めたから、作った。座って」

 促されて席につけば、グリルベーコンの上に目玉焼きがのったプレートがある。例の音の正体だ。
 真紘の着席に合わせて瑠樹は伏せてあったグラスをひっくり返し、そこにアップルジュースを注いでいく。
 チンと音がして、瑠樹がコンロのグリルを覗く。グリルパンを引き出せば、トーストが焼きあがっていた。
 ふんふんふんと鼻歌交じりで瑠樹はバターを塗り、何やら振りかける。どうぞと目の前に置かれたのは、シナモントーストだった。

 野菜類がアップルジュースだけというのは、ご愛嬌。でも、なかなかどうして、平日の朝には立派な朝食である。
 真紘は嬉しいと同時にやや焦る。

 (何度か一緒に朝ご飯を食べたけど……)
 (パンを焼いて、コーヒーだけだったよね。たまにヨーグルトがあるくらいで)
 (これが、瑠樹さんちの標準なのかしら?)

 東京生活がはじまってからの真紘は、料理を放棄した。最初こそは「お弁当を……」などと意気込んでいたが仕事から戻れば疲れているし、帰宅途中の買い物でセールの総菜に頻繫に出くわば、もうそれで晩御飯は事足りてしまう。
 また瑠樹とお付き合いする前の段階で、彼がやたらとパンを買ってきた。それを食するために朝食とランチに充てていれば、真紘は料理をしなくてもよかったのである。

 「いっただきまーす!」

 正面から明るい瑠樹の声がする。両手を合わせて食事に感謝する祈りののちに、瑠樹は己が作った朝食を食べはじめた。
 今日のベーコンはうまいなとか、やっぱり野菜が少しはほしいなとか、今度ピクルスでも作っておこうかとかいっている。

 「…………」

 真紘は瑠樹のお手製の朝食に手を付けず、目を大きくしてじっとそれを凝視している。
 シナモントーストを半分ほど食べてから、そんな真紘のことに瑠樹は気がついた。

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