90日のシンデレラ
 自分の本社での時間は残りわずか。そう気がついてからは、真紘の中に冷めた気持ちが広がっていく。
 感情が冷めてしまえば、熱意はしぼんでいく。瑠樹に認めてもらいたくて、業務改善コンペも頑張れば企画開発研修にも力が入った。
 料理ができないことがバレてとても恥ずかしかったが、これも瑠樹が指導してくれた。公私にわたって、彼は真紘の師となっていたのである。

 真紘としてはこの研修は、憧れのひとり暮らしであり、都会暮らしである。仕事で厳しいこともあるが、今までの頑張りに神様が特別な時間を与えてくれたと考えて、東京生活を楽しむことにした。
 その神様からのご褒美は、真紘の希望以上のものとなった。真紘の居住地には絶対に存在しないとびきりのイケメンと恋愛することになったのだから。

 忽然と瑠樹が消えた。コンタクトを取ろうにも、こちらからはできない。瑠樹とはお互いのアドレスを交換していなかった、だってこの社宅にはいつだって真紘がいるから。瑠樹が真紘に会いたいと思えば、ここへ足を向ければいいだけのことだったのだ。
 瑠樹が自分の荷物を撤去することは、この部屋に用はないということで、引いてはもう真紘との時間は終わりということなのだろう。

 瑠樹に振られたと自覚した今は、夢から覚めた瞬間といえばそう。
 夢は目が覚めてしまえば、記憶にあっても時間の経過とともに儚く消えてしまうもの。
 借り上げ社宅に彼を思わせるものが何ひとつ残っていなければ、瑠樹との時間は自分が勝手に想像した記憶の改ざんにしか思えなくなってくる。

 (そうよね)
 (あんなイケメンが、こんな田舎娘を相手にするほうがおかしな話だよ)
 (向こうは、最初から三ヶ月限定のつもりでいて……)

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