90日のシンデレラ
 もうひとつ、希望的な結論も真紘は見つけてしまう。この服がなくなるという現象は一時的なもので、すぐに夏物でクローゼットも下駄箱も元通りにパンパンになるに違いないというものを。

 「あれ?」

 とある重大なことに、真紘は気がついた。
 自分は今、企画開発研修の終盤に差し掛かっていて、来週にも締めくくりの研修発表会がある。その発表会が終われば本社研修は完全終了となり、真紘は田舎の孫会社へ戻らなくてはならない。

 「そうだった、私、出向しているんだった」

 今さらながらに、真紘は現状を知る。と同時に、いつまでの続くと思われていた現実が、足元から崩れ落ちていく。
 ここでの生活は期間限定。その期限はもう目の前に迫っていて、三ヶ月の本社研修は間もなく終わるのだ。

 最初は早く終わらないかなと思っていた研修だったのに、瑠樹とのお付き合いがはじまってから、すっかりそのことが頭から吹っ飛んでいた。
 瑠樹との時間は、戸惑うこともあるけれど、おおむね楽しい時間である。また楽しいだけでなく、彼からはいろいろ教えてもらった。
 それは、仕事だけでなく料理のことだったりファッションのことだったり、もっと飛躍して経済やマーケティングといったお堅い時事考察にも及んだ。
 とにかく瑠樹は視界が広かった。視点だって多方向であれば、話をきくだけで自分の中の世界が広がっていくような気がした。
 そんな瑠樹との時間がずっと続くものだと、なぜだか真紘は無条件で信じていた。

 (私、一体、何を学んでいたの?)

 あれだけ企画開発研修のレポートには気を割いていたのに、それ以外のことがまったく真紘はみえていなかった。
 そんな真紘に対して瑠樹のほうは冷静に、「もう時間だよ」といって真紘の前から消えたようにみえたのだった。
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