90日のシンデレラ
 「ところで、現地には誰を連れていくんだ? やはり、単身でいくのか? 父は孫もそこそこ生まれて跡継ぎ候補が増えたからのん気なものだが、母は母で別の意味でそわそわしているんじゃないか?」
 「まぁ、概ねそんなところ。家で顔を合わせれば、いろいろ小言をいわれる」

 瑠樹が真紘の部屋に転がり込んだ理由は、通勤時間を節約するためである。だがそれとは別に、母親からの「結婚はいつするの?」の干渉から逃げるということもあった。

 長男は学生結婚という早婚をしていれば、次男は普通に三十前に結婚した。三男の瑠樹は末っ子で甘やかされていたわけではないが、気がつけば三兄弟の中で一番自由奔放に生きていて、いつの間にか三十を超えていた。
 暁紀は母親に向っていう、瑠樹がなかなか結婚しないのは俺と紗生の子育て姿をみて所帯じみて嫌だと思ったんじゃないかと。

 「そうだろな、俺と薫が結婚したのは学生のときで早すぎるとかいわれたけど、瑠樹は瑠樹でいまだに独身となれば、母は同じ兄弟なのに違いすぎて心配なんだろう。もし将来結婚したいと考えるのなら、一度、日本を出てしまうと、嫁さん探しの機会はぐっと減ると覚悟しておいて。今の本社総務部と子会社副社長の兼任なんかとは、忙しさのレベルが違うから」

 暁紀は、母と違って自由奔放に生きる弟に結婚を強要したりしない。自分のところは息子ひとりであるが、次男の紗生のところには三人の子供がいる。後継者不足とは無縁の北峰家であった。

 「兄さん、忠告ありがとう。一応、いいかなって感じの子は、みつけてはある」

 この瑠樹のセリフに、パッと暁紀の顔が輝いた。
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