90日のシンデレラ
 ひとりで異国の地にいくのは気楽でいいが、出来る事なら苦楽を共にできるパートナーがいるほうがいい。心に決めた相手からの励ましは、なによりも活力になる。自分の経験から、弟にもパートナーとともに赴任してほしいと兄は思うのだ。

 「お、そうなんだ! これはこれは、余計なお世話だったな」
 「いや、まぁ、まだ本人了承が取れていないから、何ともいえないんだけど」

 もどかし気に瑠樹がいうと、その弱気なセリフに暁紀は噴き出した。肩を揺らして、瑠樹の前で大いに笑う。笑いを抑えようなどと、一切しない。

 「へぇ~、あんなにモテモテの瑠樹くんが、手を焼いているんだ」
 「手を焼いているわけじゃない。掴みどころがないというか、行動が想定外というか、それに……どんくさいところもあるし。何といっても、料理ができない」

 料理ができないのところで、また大きく暁紀は笑ってしまう。肩をゆするだけでなく、腹を抱えて姿勢が崩れるほどに。

 「東南アジアはメイドがいるから、料理の心配はしなくていいぞ。とにかく茉莉ちゃん以外の候補が見つかったから、よかったよかった」

 ここでもカマリが、鎌田茉莉の名前が出てくる。何気ない暁紀の言葉に少し瑠樹はムカッとする。

 親族から面と向かっていわないが、瑠樹は薄々感づいている。瑠樹とカマリの結婚を、母が望んでいるということを。カマリが幼馴染で一番瑠樹にもの申せる人物であるからだ。
 でも現実は、お互いがそれを望んでいない。現に鎌田女史は瑠樹ではなく別の人と年末に結婚する。
 その新居は、真紘が使っていた借り上げ社宅だ。入居までの空き時間を真紘の研修宿泊先に提供したのだった。その関係で、瑠樹はマンションのカードキーを手にしていたのである。
 そんなこと、もちろん真紘は知らない。

 「兄としては、そのお相手との行く末がうまくいくことを願うよ」

 そう暁紀はいい、まだ見ぬ瑠樹の結婚相手に何も反対しなかったのだった。
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