90日のシンデレラ
 ***

 飛行機を乗り継いて、実家へ帰る。本社へ向かうのとは逆ルートだ。
 三ヶ月の本社研修を終えて、真紘は我が家へ帰ってきた。たった三ヶ月離れていただけなのに、ひどく懐かしい。迎える家族も、送り出したときと同じで変わりない。
 変わっているのは、季節が初夏から盛夏になっていたこと。三ヶ月の本社研修を終えれば、世間は八月に入っていた。
 週末を利用して引っ越しをし、戻った翌々日には真紘は孫会社へ出勤したのだった。


 孫会社へ出勤すれば、これも何だか懐かしい。
 と同時に、社屋がひどくみすぼらしくみえる。東京本社のピカピカの高層ビルと比べてはいけないとわかっていても、気が滅入るものがある。しかし、現実を認識するにはいい材料だ。
 これが本来の自分の居場所――小さくため息をついて、まずは主任の元へと向かった。

 主任のデスクへいけば、空席であった。しかし、机上にはたくさんの書類が載っている。
 トイレにでも行っているのかな? と思っていたら、女性先輩から声掛けされた。

 「あら、椎名さん? 研修はもう終わったのかしら?」

 この先輩は真紘の五つ上の既婚者だ。子供を幼稚園に預けて、産後も仕事を続けている。我が社のようなところにすれば、貴重な女性社員である。

 「はい。無事、終了しました。主任に報告をしたいのですが……」
 「あ、そっか! 椎名さん、今日戻ったばかりだと知らないわよね。主任、家庭の都合で辞めたのよ」
 「え?」

 なんと、真紘を東京本社研修に送り出したあの主任は、ちょうど一ヶ月前に退職していたのだった。
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