90日のシンデレラ
 真紘の知る課長は、主任に比べて格段に要領が悪い中年男性である。直接、その課長と仕事をすることはなかったが、彼のかかわった案件は遅延気味のものが多いというのは社で有名なこと。なんであの人が課長にあがったのか、ずっと真紘は謎に思っていた。
 その課長が自分の業務と並行して、超絶できる主任の代行を行っているなんて……思わず、真紘は黙り込む。
 察した真紘に向かって先輩社員はいった。

 「見てのとおりよ、仕事が滞っているわ。戻ってきたところなんだけど、椎名さん、手伝ってちょうだい」

 泣きの入った先輩の声であった。



 ***



 復帰直後から真紘はこき使われる。研修前の自分の業務とは別に主任が残していった案件を手伝っているからだ。
 毎日、メイン業務を終わらせてから主任の残務処理を行う。まとまった時間がなかなか取れないから、進捗はそう大きくはない。それでも少しずつ減っていった。
 真紘が孫会社復帰して十日目のことだった。熱心な真紘の様子をみて課長はこう宣う。

 「椎名さん、悪いんだけど、盆休みに一日でいいから、出勤してくれないかな~」

 周りを見渡せば、盆休みに家族の御用のない独身社員は真紘ひとり。本社研修に駆り出されたときと同じ状況である。
 目の前の書類の山をみて、真紘は思う。とりあえず、この山を何とかしないと、次のことができないと。
 また、この小さな小さな会社では故意に悪評を立てるのは容易(たやす)いこと。休日出勤を断れば、そんなことをこの課長が行ったりしないとは言い切れない。

 さらにその課長は、
 「さすが本社まで研修にいくような人材だ。仕事が速くて、頼りになるね~」
 などと、逃げ道も塞いでしまう。
 平社員の真紘には、どうすることもできない。本社研修でご迷惑をおかけしましたからと、休日出勤を了承したのだった。
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