90日のシンデレラ
 一方の瑠樹は、何やら思案している。彼の箸を持つ手がすっかり止まっていた。
 そんなに難しい質問をしたつもりはないのだが、彼は持っていた箸を一度置いた。困ったように、手を額に添える。

 「どこから話していいか……」
 「じゃあ、私から質問していいですか?」
 「そうだな。そのほうがいいかな」
 「では、どうしてうちの実家にいたんですか?」

 訊きたいことはいろいろある。真紘も瑠樹と同様で、整理ができていない。
 そうなれば、時系列を現在から順番に過去へさかのぼっていくのがいいかなと、真紘は口火を切ったのだった。

 「真紘のご両親に、結婚の報告をしにきた」
 「結婚の報告?」

 真紘は結婚していない。カレシもいない。だからどうやって課長補佐就任を断ろうかと悩んでいたところだった。
 真紘が結婚しないとなれば、この結婚報告は瑠樹の結婚についてとなる。

 (なんで無関係なうちに家に、結婚報告するのよ)
 (元カノの了承なんて、いらないだろうに。私、そんな面倒な元カノと思われていたのかしら?)
 (あーでも、社には内緒で間借りなんかしていたから、バレたりしたら、奥様と揉めそうだからか?)

 真紘として、それをネタに瑠樹をゆするようなことはしない。というか、そんなこと、考えたことなかった。

 (あー、でも瑠樹さん、結婚するんだ。そうよね、いつ結婚してもおかしくない人だし。今までよく独身だったと思う)

 瑠樹が結婚するというのなら、それはそれでおめでたいことだ。
 元カノとしては複雑な思いが全くないとはいえないが、その奥様となるような人はきっと真紘なんかよりもずっと優秀で、きれいな人に違いない。
 そんな女性と真紘が並んだところを想像する。端から勝負にならない。苦笑ものである。

 「結婚してシンガポールへいくといったのだが、話が通じなくて……」
 「瑠樹さん、結婚だけでなくシンガポールへいくんですか?」
 「あ、まぁ……兄の業務を引き継ぐことになって。来週に一度、現地入りする」

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