90日のシンデレラ
 ――よし! 決めた。シーナちゃんを俺のカノジョにする。
 ――俺は、シーナちゃんとキスしたい。でもカレシでない嫌というのなら、俺がシーナちゃんのカレシになればいいだけだもんな。そうすれば、間借りのことも違和感なくなるし。
 ――今から俺はシーナちゃんのカレシ、シーナちゃんは俺のカノジョ、な。

 夜のドライブから戻って瑠樹はそう宣言した。
 とても軽い言葉ではじまったお付き合いであったが、瑠樹の中ではまだまだ全然、有効なのだ。

 「あの、話が飛躍し過ぎて、ちょっと理解が追い付かないのですが、質問をいいですか?」
 「どうぞ」
 「結婚の許可を貰いに、うちの実家まできたのはわかりました。私のほうはてっきりお付き合いは終わったと思っていたのですが、瑠樹さんのほうはそうではないということですね」
 「その通り」
 「では、いいですか? 結婚してシンガポールへ同行をというのが希望だそうですが、どうしてその相手が私なのですか?」

 真紘のような田舎の冴えない女子社員が選ばれるには、何かわけがある。
 本社には海外赴任に問題なくついていける有能な女性がごまんといる。何もわざわざ田舎の小娘を選ぶこともないはず。

 「え、だって、真紘は俺のカノジョだろ。それに、事業に失敗して俺が無一文になったとしても、真紘なら俺のことを捨てずにいてくれると思ったから」

 何を今さらといわんばかりに、いつもの軽い口調で瑠樹は答えた。思いもかけないこの瑠樹の選択理由に、真紘は目が丸くなった。
 誰がどうみてもカッコいい瑠樹が、その瑠樹が、カノジョに捨てられる心配をしている!

 ――今から俺はシーナちゃんのカレシ、シーナちゃんは俺のカノジョ、な。

 真紘が瑠樹のカノジョとなったときの言葉、この言葉にひとつも嘘はなかったのだった。
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