90日のシンデレラ

~エピローグ~

 窓から差し込む陽射しは暖かだ。十二月に入ったというのに庭の木々は色鮮やかで、まだまだ秋の名残が色濃くある。
 日当たりのよいリビングで、北峰良子夫人はふたりの客人をもてなしていた。

 「茉莉ちゃん、ごめんなさいね。急なことをお願いしちゃって」
 「いえ、奥様。シンガポールは新婚旅行の経由地ですし、私も気になるから瑠樹さんのところにお邪魔してきます」

 そういって、茉莉こと鎌田女史は良子夫人が淹れてくれたティーを口に含む。さすが高級茶葉である、風味がとてもいい。
 他にもテーブルには都内有名店のパティスリーが並べられている。その量、女子三人がいただくには、かなり多い。
 女子三人――ここには、瑠樹の母親の良子、瑠樹の同僚で幼なじみの鎌田茉莉、瑠樹のアシスタント業務に就いていた山形聡子がいる。会場は瑠樹の実家。茶会の主催者が良子夫人なら、場所が北峰宅になるのも当然のこと。

 どうぞといわれて、茉莉は気になるクッキーをひとつ摘まむ。口に放り込み、じっくりと味わった。
 茉莉は先週、入籍した。名前は鎌田から橋本へ変わったのだが、まだ実感がない。橋本姓になってまだ一週間と経っていないのもあれば、結婚しても社での通称を旧姓の「鎌田」のままにしてあるせいもある。

 (でも、奥様にすれば、私は鎌田の茉莉ちゃんなのよね~)

 にこにこと優しい笑みを湛えて、良子夫人は茉莉に次をすすめる。遠慮なく、茉莉もいただいた。

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