色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅲ
 陛下と一緒にやって来た薔薇園は、甘い匂いで溢れ。
 色彩豊かな薔薇が見事に咲き誇っている。
 バニラがいたら絶叫して喜ぶだろうなあと思いながら。
 薔薇を眺める。
「この前、感動していたから喜ぶかなと思って」
 優しく言う陛下に、何となく胸がキュンとする。
 漫画のように、こんな整ったイケメンの王様なんて本当にいるのかあ…

「そういえば、君の名前って何だっけ?」

 感動していたのに。
 陛下の言葉に、私はズコッとよろけた。
 この前、ちゃんと名乗ったはずなのに。
 もう忘れられているのか…
「セシル・マルティネス・カッチャーにございます」
「それは、知ってる」
 じゃあ、何故()いた!?
 そんな目で見ていると陛下はじっとこっちを見る。
「本名じゃなくて、呼び名」
「あ・・・」
 陛下に言われ、そういえばと気づく。
「ピアノの先生とかですかねえ…」
 と言って、陛下に先生と呼ばせるわけにもいかないだろうが!
 と自分で自分を突っ込む。
「あ、太陽夫人ですかねえ?」
 慌てて答えると。
 青い瞳が憎しみを捕らえたかのように…怖い顔をした。
「あいつが俺よりも先に結婚しているということが気にくわねえ」
「…え、陛下って独身なんですか?」
「陛下と呼ぶなっ」
 ぴしゃりと、言われて。
「ごめんなさい」と謝る。

 目の前を白い蝶がふわふわと飛んでいく。
 むせかえるような匂いと、美しい花。
 目の前にいる非現実的なカッコイイ王様。
 毎回、思うのはどうして騎士団の制服を着ているのだろうか。
「なんとお呼びすればいいのでしょう?」
 質問するが、陛下は口を閉ざしたままだ。
 怒らせてしまったのだろうかと不安になる。
「もしかして、王族の方は皆、花の名前で呼ばれているのでしょうか?」
 私が質問すると、陛下はびくっと驚いた顔をする。
 王様なのに、嘘がつけない人のようだ…
「弟君が蘭、姪っ子様がスズラン、甥っ子様がルピナス。では、この国の国王と呼ばれる方はこちらの薔薇のように美しい花の名前なのでしょうね」
 ゆっくりと喋ると。
 陛下はじっとこっちを見る。
「…ローズだ」
「え?」
「俺のことはローズと呼べ」
 陛下はすたすたと歩いて奥へと進んで行く。
 いや、まさかのローズって…(笑)
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