ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
それでも、アルベールがこの地を離れた方がいいに決まってるのは事実だ。
「…………餞別。受け取りなさい」
私も、できる限り平気な顔をして、用意していたブローチを手渡す。
「誕生日に用意していたの。こんなの目に入ったら、気分が悪いわ。目につかないように、持っていって」
「…………は?」
押し付けられたブローチを、なんの感慨も浮かばないような冷たい瞳で見つめて、アルベールはいつもの一文字だけを発した。
できれば、捨てずに持っていてほしい。
これが役に立つような、危ないことをしないでほしい。
「さっさと、行ってしまったらいいわ」
その瞬間、晴れやかな笑顔をアルベールが見せたのは、幻だったに違いない。
「…………は」
アルベールが発したのは、それだけ。
なぜか、ブローチを握りしめたアルベールは、恭しく礼をすると、私に背を向けた。
泣くことさえ、できないでいる私を残して。