ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?

「ところで、アルベール。この釣書」
「は?」

 冷たい目線。釣書を見せられたのが、そんなに気に入らなかったのだろうか。

「さすがに、それじゃわからな……」
「――――ミラベルは」
「え?」
「あなたは、こういう対応のほうがいいのでしょう? 言うに事欠いて、魔女の呪いなどと」

 冷たい雰囲気のままのアルベールに、壁際まで追い込まれる。
 ドンッとなるほど強く手をついたアルベールと壁の間に挟まれた。

 そういえば、アルベールは冷たい目をしていたって、こんな風に感情を露わにしてくることはなかった。

 そのまま、にっこりと笑うアルベール。
 そんな笑顔、見慣れな過ぎて、心臓に悪い。
 なんでこんなにドキドキしてしまっているんだろう。

 私の喉元が、長い指に持ち上げられ、上を向かされる。

「……だって、嫌いなはずの人間に釣書寄こすなんて。しかも名前すら書いてないし」
「名前なんて書いたら、ミラベルは来ないでしょう?」
「国王陛下の直筆サインが恐れ多くも書いてあるのに、無視するはずないでしょう?」
「――――俺の態度は、嫌われるようなものだったという自覚があります」

 私は、思わず首を傾げた。
 嫌われると分かっていてあの態度? やっぱり私のことが嫌いだったとしか思えないのに。

 そこでようやく、胸元でマントを止めているブローチが目に入る。

 ……あれ? もしかして、これは、お別れの時に、私があげたブローチ? まだ持っていたの?

 そのブローチは大きなひびが入っていて、近衛騎士の白い正装に身を包んだアルベールの姿には、不釣り合いに思えた。

 ブローチが割れているというその事実に私の心臓は凍り付く。
 私は、これ以上ないほど近くにいるアルベールの手を掴み引き寄せた。

「え? ミラベル?!」
「怪我! 怪我は大丈夫なの?!」
「――――え?」
「ねえ、どこを怪我したの!」

 長い溜息が聞こえる。
 怒った顔をしていたアルベールが、もう一度、熱っぽい視線を向けてきた。
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