ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
「……大丈夫です。命拾いしましたから、これのおかげで」
「――――本当に?」
「ええ、胸元に傷は残りましたが、騎士の勲章です」
「…………アルベール」
アルベールが、私のことを横抱きにする。
そのまま、ソファーまで連れていかれて座らされた。
いつのまにか、そばに控えていたはずのセイグルの姿はなく、私たち二人きりだ。
「それより、どういうつもりですか?」
「え?」
アルベールは、マントを止めていたブローチを外して、大事そうに握りしめた。
「こんなもの、渡すなんて……」
「え? あの」
「ミラベルからもらったものだから、肌身離さずつけていたんです。最後の最後まで、こんなものを渡されていたなんて知りもしないで」
「……アルベール」
私のお小遣いは、当時潤沢だった辺境伯令嬢のものだ。
たぶん、たくさん勉強をして物の価値が分かる今なら、どれくらい価値が高かったか、あの頃より理解できる。
でも、もし同じ場面で、アルベールにそのブローチを渡せるのだとしたら、私は迷うことなく渡すに違いない。
「北極星の魔女の呪いは、魔女を殺すか、魔女が俺が愛した人を殺すか、魔女に俺が殺されるかでしか終わらなかったから」
「え…………?」
そんな顔で笑ったりしないで欲しい……。
まるで、最後の選択肢を選ぶつもりだったなんて顔で。
「俺は、最後の選択肢を選ぶつもりはなかったですよ。もちろん、北極星の魔女との因縁は、俺の代で終わらせる気でしたが」
「でも!」