君に、ブルースターの花束を
夕方、相手と待ち合わせをしているレストランへ行くために、ジークフリードは用意されたタキシードに着替えた。

(どうせ愛なんてカケラもない婚約だ。馴れ合わなくていいだろう)

そう冷めた心で思いながら、ジークフリードは父と母と共に貴族が出入りする高級レストランへと足を運んだ。天井からぶら下げられたシャンデリアが眩しいほど輝き、有名ピアニストが優雅なメロディーを奏でている。そんな中、ジークフリードと貴族であるソフィアは出会った。

「えっと……ソ、ソフィア・グレンジャーです。よ、よろしくお願いします」

緊張しています、というのが嫌でもわかるほどソフィアは緊張していた。顔は真っ赤に染まり、少し俯きがちである。だが、美しく手入れがされた長い黒髪とサファイアのような青い瞳を持った美人だった。着せられている水色のドレスがよく似合っている。

「ジークフリード・バイルシュミットです。……よろしく」

ジークフリードはそう言った後、もう何も話すことはなかった。互いの親は結婚のことを和やかに笑みを浮かべながら話しているものの、ジークフリードは他人事のように黙々と運ばれてくるコース料理を食べていく。
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