神さま…幸せになりたい
医院長は美華さんがホストの腕に自分の腕を絡ませ、胸を押し付けている様子を見て激怒していた。美華さんに言われるがままお金を用意していたが、そのお金がまさかホストに貢いでたとは知らなかったのだろう。しかもあろうことか激怒のあまり、そのお金の出所まで喋ってしまった。診療報酬の水増し請求をしていたこと、製薬会社との裏金など…事務局長を騙してお金を工面していたとは…呆れて何も言えなかった。

医院長が来て、事の重大さに美華さんは焦ったが後の祭りだ…
結果、医院長は不正がバレて逮捕された。病院は大騒ぎだ。誰も医院長自ら不正をしていたとは思ってなかった。 

美華さんは俺の実家の元家政婦の事件に関わってると、取り調べを受けることになった。もう二度と関わりたくない。病院を辞めようと考えていた頃、シンガポールにいる恩師から、こっちに来ないか?とのオファーを受けた。

詩織の居場所もわからない現状に困惑したが、この病院とは関わりたくないと思いスマホも変え、恩師の元で1から勉強しながら働くことにした。

シンガポールに行って、しばらくたってから詩織が札幌に行った所までわかった。俺は高校からの友人で、同期の西卓也にすぐに連絡をいれた。卓也は小児科を専攻して札幌のこども病院に勤めていたのを思い出した。もしかしたら詩織は小児科の看護師として働いてるんじゃないかと思っていた。個人情報だからバレたらやばいけど見つけたらすぐに連絡すると言ってくれた。

札幌で働いている同期の卓也から連絡をもらったのはつい5日前のことだった。お前が探してる川原詩織さんだけど、名前も生年月日も合ってるけど…子供、いるんだけど…まだ1歳すぎの男の子だ。

詩織と最後に会った夜にできた子なんだと思った。あの日の俺は早急に詩織を求めすぎて避妊を忘れた。今までそんなことなかったのに…そのことに気づいたのは学会から帰ってきた夜だった。そんな奇跡みたいなことがあるのか?だが迷ってる暇はなかった。恩師に事情を話して急ぎの仕事だけ終わらせて飛行機に飛び乗り日本に帰ってきた。会いたかった。ずっと会いたかった詩織を前にして俺は何もできなかったこの2年間を恨んだ。もっと早くに探し出してあげていれば…詩織が1人で産んで育てることがなかったのに…

望夢を腕に抱いた時、こんなに大きくなるまで詩織が必死に育ててくれたんだと涙が浮かんだ。感謝しかない。

でも詩織の様子がおかしいのにすぐに気がついた。何度も何度も俺に謝り、望夢を取らないでと…そんな事するはずないのに…勘違いさせてしまった…2年前よりも痩せて小さくなって震えている背中を撫でながら、俺はこの2年間のことを詩織に伝えた。
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