ボンドツリー
一つ目の記憶
私がママを失ったのは5年前の大雨の日だった。

空は泣き止むことを知らず、私たちの住んでいる城下町全体に大きな水滴を浴びせてくる。

家の外からは風と雨の音がする。

おそらくこのまま振り続ければ洪水が起きるだろう。

私はママにくっついた。

「ママ、怖いよ」

「大丈夫、もうすぐ雨はやむわ」

ママの優しい声に私は安心した。

風の音、雨の音がしていてもママの声ははっきりと聞こえる。

ママは私を優しく包み込んでくれた。

「オリビア、少しだけ外を見てくるわ。作業場が心配なの。ちょっとだけ待てる?」

え?外に行くの?

一人でいるのは怖かった。

だけど私はもう10歳だ。

これくらい大丈夫。

「うん、大丈夫。でもすぐに帰ってきてね」

「すぐ帰るわ」

ママは私のおでこにキスをしてくれた。

それがママの姿を見た最後だった。

雨がやんでからも風は吹き荒れ、川からあふれ出した流水は城下町のすべてを飲み込んでいった。

ママはどこに行ってしまったのだろう?

それから私は孤児院に引き取られ、そしてオリヴァーと出会った。
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