春の花咲く月夜には
私ーーー向居心春(むかいこはる)の初恋は、12歳か13歳・・・中学に上がった頃のことだった。

ーーーいつから好きになったっけ。

夏休み?文化祭?

明確な時期というのはわからない。

ただ、気づいたら好きになっていた。

担任だった、国語教師の元村(もとむら)先生。

最初はただ、憧れていただけだと思う。

けれど気持ちは確実に、恋へと変化していった。




私が通っていた学校は、中高一貫教育をしている女子校だった。

当然ながら、学校内に同年代の男子はいない。

6年間、ずっと同年代の男子はいない。

友達の中に彼氏がいる子もいたけれど、みんなの恋の相手といえば、ほとんどが、有名人や2次元や、通学の時に見かける男子。

あとはやっぱり、先生を好きになる生徒たち。

私もそんな、一人だった。



元村先生の第一印象は、「ごくごく普通の若い男の先生」。

かっこ悪くはないけれど、イケメンというにはあまりに普通。

だけど・・・いつからだろう、そんな先生を「かっこいい」って認識するようになったのは。

好きになってしまってからは、「かっこいい」としか感じなかった。



好みは色々あるけれど、元村先生はすごく優しかったから、恋愛感情があるかないかは別にして、生徒から、すごく人気の高い先生だった。

バレンタインは、友達と一緒に先生にチョコを渡しに行った。

文化祭や体育祭では、先生と写真を撮るのに必死だった。

修学旅行は、できるだけ先生と一緒の場所を回りたかったーーー。

中高時代を思い起こすと、全ての場面に、先生の顔が自然と浮かぶ。

教室も、校庭も。

殺風景な渡り廊下も。

先生がいるってだけで、特別な世界のようだった。



あの頃聞いた流行りの歌は、全て、当時の気持ちをよみがえらせる。

あの曲も。あの歌も。


ーーーーー大好きだった。本当に。


そしてそれから大人になって、一度、恋が実って壊れても。

私は今も、あの頃の想いに囚われたまま。







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