春の花咲く月夜には
「・・・ふふっ、ようやく寝たね」

「はーっ、もう、やっとだよ・・・」

リビングの一角に敷いた白いタオルケットの上で、琉花がすやすやと気持ちよさそうに眠り始めた。

奈緒はやっとの思いで寝かしつけから解放されて、ふーっと大きく息を吐く。

我が妹の、しっかり「お母さん」をしている姿は、尊くて、そしてやっぱり少し不思議な感じ。

「うー・・・、肩こったー・・・」

「お疲れ様。じゃあ・・・今のうちにお茶にしようか。リクエストのケーキ買っておいたよ」

「やった!ありがと~!もう、自分じゃなかなか買いにも行けなくて」

「だよね。あ、ゆっくりしてて。今用意してくるから」

「はーい!」

奈緒がうーん!と伸びをした。

私は笑って、キッチンに入ってお茶の準備に取り掛かる。



土曜日の今日。

私の一人暮らしのマンションに、「この前行ったテーマパークのおみやげを渡したい」ということで、琉花を連れて妹の奈緒が遊びに来ていた。

央登さんは家でお留守番。「たまには一人で家でゆっくり寝たいでしょ」という、奈緒の気遣いもあるようだ。

お湯を沸かし、紅茶とケーキの準備をすると、お盆にのせてリビングヘ行き、ローテーブルにのせていく。

奈緒の目が、嬉しそうにわぁっと光る。

「はい、どうぞー。おまちかねのいちごタルト」

「めっちゃおいしそう・・・!ありがと~」

「ふふふ。どういたしまして」

いただきますの挨拶をして、用意したデカフェの紅茶とともに、奈緒はいちごタルト、私はチョコバナナタルトを頬張った。

奈緒はもちろん、私もここのタルトは大好きだ。

「おいしい・・・!やっぱおいしい・・・!」

「ふふっ、久しぶりだと尚更だよね」

「うんっ!」

「幸せだ・・・!」と言いながら、奈緒はあっという間にタルトを完食。

その食べっぷりに、買ってきた甲斐があったと私は満足感に包まれた。

「・・・あ、そうそう!」

紅茶をひとくちゴクンと飲んで、奈緒はカバンからスマホをごそごそ取り出した。

そしてなにやら操作して、私に画面を見せてきた。

「これ。おねーちゃんどうかと思ってさ」
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