春の花咲く月夜には
「元気だった~?やー、すごい偶然だねえ。心春、今日は郵便係?」

「うん。今から行くところ。紗也華は外回り?」

「そ。久しぶりにね~。一人担当が変わったから挨拶に行ったの」

そう言って、紗也華は隣に立っている男性を右手で示す。

私は首を持ち上げて、紗也華の隣にいる男性の顔に目を向けた。

と、その瞬間、思わず大きく息を飲む。


(・・・!?、えっ・・・)


ここ最近、何度も目にした口元だった。

それに、綺麗に配置されている眉と鼻と、鋭い目。

こんな人は、世の中にそうそういない。

そうそういない、人だけどーーーー。


(・・・まさか・・・)


男性も、私を見下ろしとても驚いた顔で固まっている。

そんな私たちを気にする余裕はなさそうに、紗也華は突然何かを思い出したのか、カバンの中をゴソゴソし、「ああっ!」と叫んでエレベーターの「下」のボタンを慌てて押した。

「やっぱない!私、多分B社にスマホ忘れてきてる!ごめん、賀上くん、先に戻ってて」

「あ、はい」

「じゃ、心春もまたね!」

そう言うと、紗也華は扉が開いたエレベーターに飛び乗って、その場からいなくなってしまった。

エレベーターホールに取り残された私と男性は、あっけにとられたように紗也華の後ろ姿を見送って、一呼吸開けてから、お互い顔を見合わせた。

「・・・」

「・・・」

「あの・・・・・・、もしかして」

「・・・ですよね」


(や、やっぱり・・・!)


そんな言葉のやりとりだけで、お互いがわかった私たち。

紗也華に「賀上くん」と呼ばれていたし、この男性は、カフェで平沢さんから助けてくれた・・・、そして、「T's Rocket」のギタリスト、「サクヤ」であることに間違いなかった。


(・・・い、いや、すごいびっくりなんだけど・・・)


「同じ会社だったんですね・・・」

「・・・そうですね・・・。オレも驚きました・・・」

思いがけない再会に、2人でしばらく言葉を失う。

だってまさかあの彼が、普通にサラリーマンをやっているとはーーー・・・。

しかも、私と同じ会社で。

初対面やライブの時と、まるで別人のような姿になって。

「びっくりしました・・・。今まで会社で一度も会ったことなかったですよね。ずっとマーケティング部に所属してますか?」
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