春の花咲く月夜には
意識を向けているものは、自分の中に情報として入ってきやすい。

今までは、まるで素通りだった賀上くんに関する情報が、彼と社内で会った時から、私の中に急激に流れ込んできた。


「朝、賀上さんとエレベーターで一緒だったの~!」

とか、

「さっき賀上さんとすれ違った・・・!」

とか、

「今、休憩所に賀上くんいるよ!」

とか・・・。


とにかく、後輩から先輩たちに至るまで、うちの課の女子たちは、楽しそうに賀上くん情報を共有していた。

私が気づかなかったというだけで、やはり、きっと先月から・・・賀上くんが入社してから、ずっとみんなは彼について色々な話をしていたのだろう。

そして、私も・・・。

賀上くんが社内の人間だと認識してから、彼をよく見かけるようになっていた。

廊下とか、休憩所とか。

朝の通勤電車とか、会社の帰り道だとか・・・。

なにせ彼は背が高く、人目を惹く容姿だということもある。

チラッと見かけることが多かったけど、何度かはお互い目が合って、軽く会釈をしたりした。



私たちが知り合いだったということは、そういう現場を見た人たちや、紗也華から徐々に知れ渡り、事務課はもちろん、他の課の女子たちからも、「いいな~!」とうらやましがられたりもした。

時には、賀上くんの彼女の有無や趣味を聞かれることもあるけれど、「昔の知り合いだから最近のことはわからない」と、毎回同じ返事をしている。


(趣味は音楽だろうけど・・・、その他のことは本当になにも知らないもんね)


本当に、彼についてそれ以外のことはわからない。

前職はなにをしてたのか。

いつからギターを始めたのか、いつからバンドをやっているのか。

「×3BLACK」の他にはどんな曲が好きなのか・・・。

考えてみると、聞いてみたいことが多々あった。


(いきなり質問攻めはできないけれど・・・、もう少し仲良くなったら、色々聞いてみようかな)


せっかく同じ会社だし。

紗也華の後輩でもあるし。

でも、3人で飲みに行ったりしたら、バンドの話はできないか・・・。

だけどいつか、もう少し深い話がしてみたい。

まさかの再会をした彼に、私は、今まで以上に興味が向いているようだった。




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