春の花咲く月夜には
仕事が終わって家に帰ると、私は早速、賀上くんにもらった名刺を出して、連絡先を登録し、メッセージを送信してみた。

受け取った名刺はうちの会社のものだと思っていたけど、よく見たら違うデザインで、彼の名前と携帯番号、メールアドレス、メールアプリのIDの他、知らない会社名が小さく記載されていた。


(前の会社の名刺かな・・・?)


考えていると、彼からすぐに返事が届いた。

アプリを開くと、『連絡ありがとうございます』という挨拶から始まって、まさかの再会に驚いたこと、そして、『これからは職場の後輩としてもよろしくお願いいたします』というやけにかしこまったメッセージが送付されていた。


(・・・真面目だ)


これは仕事モードかな。

もう少し気軽な文章が送られてくると思っていたけど・・・。


(でも、そうだよね・・・、賀上くん、真面目で律儀だったよね・・・)


初対面の印象は気怠げで、顔もよく見えないような髪型だったし、平沢さんに楯突く時は、なかなか口が悪かった。

そしてギタリストとしてステージに立っている時は、別世界にいる人だと思った。

けれどあの時・・・私にお礼を言うために、ライブハウスからの帰り道、わざわざ追いかけてきてくれた。

サラリーマンの時だけじゃない。

プライベートも、ステージ上にいる時も、彼は基本的にいつも真面目で律儀なのだろう。


(でも本当に・・・、まさかの再会でびっくりしたな・・・)


賀上くんも相当驚いていたけれど・・・。

紗也華には、あの流れで知り合いだったことを伝える方が自然だろうということで、賀上くんからあの後話をしたそうだ。

そのため、帰宅後早々に紗也華からメッセージが届いていたけれど、やっぱりとても驚いていた。


(・・・だよね。本当にまさかだったもん)


だけどもちろん、いやな再会ではなくて、こんな偶然あるんだなって、楽しんでいる気持ちが大きい。

カフェで助けてくれた人。

同じバンドが好きだった人。

そしてなにより、私が好きだと思った曲を弾く、別世界にいると思ったギタリスト。

そんな彼と実は同じ会社で働いていて・・・これから一緒に働いていくということに、私は、少しわくわくしていた。




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