春の花咲く月夜には
「そうだ先生。心春、まだ先生のファンみたい。先生に会いたかったみたいだよ」

「!!!」


(う、うわー・・・!やめて伊織・・・!)


学生時代、あれだけみんなと一緒に先生を追いかけていたのだし、私が好きだったっていうことは、先生もわかっているはずだ。

けれど今、少し大人になって、お酒の席でこうして本人に伝えられてしまうのは、どうにも恥ずかしいことだった。

「えっ、ほんとに?向居、さっきから全然こっち見てくれないし、逆に嫌われたのかと思ったけどなー」

「そ、そんなことないですよ」

「はは、そっかー。よかった。安心したわ」

先生が笑顔になって、私の胸はきゅんとした。

卒業し、先生と会えなくなれば、この気持ちは自然になくなる気がしてた。

けれど中高過ごした6年間、ずっと抱き続けていた感情は、そう簡単になくなってしまうものじゃなかった。

「あ、先生~。そういえば、彼女ってまだできないの?」

伊織がそう口にして、私は途端にドキリとなった。

聞きたいようで聞きたくなくて、だけどとても、気になる話題。

「あー・・・、そうなんだよなあ。なかなかできなくて」

「もー!ずっと『いないいない』って言ってるじゃない。生徒にきゃーきゃー言われていい気になってちゃダメなんだから!先生もいい歳なんだし、とっとと彼女作りなよ」

「はは、だなあ」

「もー・・・、呑気に・・・、あっ!って言っても、生徒に手え出したりはしないでよ!」

「はは、わかってるよそれくらい。さすがにそれはしないって」

二人の会話を聞きながら、「生徒」というのは「元生徒」も入るのだろうかと考える。

もし、入ってしまうなら、私の恋は、絶対に実ることはない。








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