記憶を、なぞる。【完】



「…じゃあ、わたしたちあの頃両想いだったってことだよね?」

「そうらしいな」

「え、なにそれ。もったいない。あの頃のわたしめちゃくちゃ傷ついて、たっくさん泣いたんだけど?」

「それはお前が勘違いしたせいじゃん。こっちだって突然避けられてかなり傷つきましたけど?」

「…」

「…」


口を尖らせながら文句を言うと、詩乃も負けじと言い返してくる。…わたしたちなんでこんな時に、こんな言い合いしてるんだろう。ばかなの?2人揃ってさ。小学生なの?


「あ、ついた…わたしのお家ここです」


と、くだらない言い合いをしていると、マンションの下まで着いてしまった。もう、ほんとに何やってるんだ。


「これ?」

「そう、これ」


住んでいるマンションを指さすと詩乃が「へえ」と言いながら見上げる。


わたし、このまま帰るのってどうなの?
これで終わりって微妙過ぎない?本当にいいの?


見上げる詩乃の横顔を見つめながら、頭の中をぐるぐるとさせていると、詩乃の双眸が不意にこちらを向いた。

それで目を細めながら「じゃあ、またな」と当然のように言うから目をぱちくりさせて、


「待って!」


思わず、詩乃の腕をぎゅっと掴んでしまった。



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