記憶を、なぞる。【完】



「は、なに…——」

「またが、あるの?」

「…それ、どーいう意味?」


びっくりした様子でわたしとわたしが掴んだ自分の腕を交互に見下ろす瞳。

そっと問いかけると、詩乃は戸惑った顔で首をひねった。


「また、会ってくれるの?」


なんの気なしに言っただろう”また”がわたしにはすごく嬉しかった。

もう、会えないと思っていたからそう言ってもらえてすごく嬉しくて、今顔がかなり近いことなんて全く気にしないで綺麗な顔をまじまじと真っ直ぐに見上げた。


そうすれば、詩乃は目を見張ってそっぽ向いてしまう。それから、


「…お前が会いたいって言うなら、会ってもいいよ」


頬をほんのりと染めてぶっきらぼうに言うから胸がぎゅんと大きく、ときめいた音がした。


「会いたい」

「………あっそう」

「すごく、会いたい」

「…何回も言わなくてもちゃんと聞こえてる」


間髪を入れずに返事をすると照れているのか、相変わらずの素っ気ない返事が戻ってくる。


「だから、連絡先しりたい。教えてほしい」

「…わかったから、そろそろこれ離して」


と、わたしが離す前に自分でわたしの腕を解いてしまった詩乃の顔はほんのり赤面していて、「まじでお前なんなん」とかなんとかボソボソ呟きながら、よそよそしく連絡先を教えてくれた。


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