きみと3秒見つめ合えたなら
 幼稚園からの幼馴染の井上匠海は気づいていた。流石だ。
「聖斗ってさ、相川絢音、好きだろ?」
「なんだよ、急に。」

 教室で、文化祭の準備の片付けを2人でしている時だった。匠海がいきなり聞いてきたので、かなりびっくりして、片付けていたマジックペンを派手に床に落としてしまった。

 なんで匠海にバレたのか?
 オレ、そんなにわかりやすい行動していたか?

「わかりやすいなぁ〜。動揺して〜。当たり?ライバル多いだろ?」
匠海が机を整頓しながら、嬉しそうにオレに聞いてくる。

「まあ、かわいいし、男子からモテそうなタイプだよな。」
床に落ちたマジックペンを拾いながら、本音がポロッとでてしまった。

「だよな。何人か、かわいいって言ってる奴いたよ。」

 匠海が親切に、オレをがっかりさせることを教えてくれる。

「なんで、オレが相川のこと...その、いいなって思ってるって、感じたわけ?なんかわかりやすかったか、オレ?」
あまりにもわかりやすいなら、気をつけないと...と思った。

「いや、なんとなく。聖斗の好きそうなタイプかなぁって。」
「鋭いなぁ、匠海。え?もしかして、匠海も...?」
嫌な予感がして、匠海に尋ねた。

「ま、オレは友梨ちゃん派だけど。」

「なんだ、よかったよ。かぶらなくて。」
オレたちは昔を思い出して苦笑した。

 幼稚園のころ、好きな女の子の隣の席を取り合って喧嘩したことを思い出した。


 運良く相川絢音と同じクラスになって、ラッキーだと思っていたが、オレも勇気がなくて、話しかけられず、全く話す機会もないまま時は流れていた。

 だけど、初めての文化祭で、ぎこちなかったクラスは一体感を増し、そのおかげで、相川絢音とも話す機会もできた。

 ...はずなのに、
実際は話せていない。

 4月から見ていてわかったのだが、相川絢音は男子と絡まない。

 相川のグループの会話に男子が入って行っても、相川と話せた奴はいない。

 でもあの笑顔で話されたら、やばいよな、なんて思う。

 そんな中、たまに目が合うだけでドキっとしてしまう。

 相当、好きになっているのは、自分でも分かる。

「思い切って、告白したらいいじゃん、聖斗。」
突然片付けの手を止めて、匠海が言う。
「ムリだって。」
思わず即答してしまった。

「好きなんだろ?いいじゃん、告っちゃえよ。文化祭の準備だって、お前たちいい感じに見えたけど?」

「いい感じに見えるかー?話したこともないんだけど。一緒に作業するんだけど、ぜんぜんオレのことなんて眼中にない感じ。どこ見ていい感じに見えたんだよー。」

「え?話してないの?ま、オレも話したことないけど。なんか、雰囲気?良さそうに見えた。」

 匠海、適当なこと言うなぁ。

 匠海は再び片付け始めて、
「さっさと、終わらせて帰ろうぜ」と言ってきた。手を止めるような話題をふってきたのは匠海なのに。

 相川絢音に関して言えば...絶対オレに気はない。
 告白して玉砕なんてしたら、あと半年、気まずいじゃないか。

 笑顔が見られるだけでいい。
 たまに目が合う...

 今のままで十分だと言い聞かせる。

 本当はもう少し、距離を縮めたいけど。
匠海が片付ける相川の机をぼんやり見ながら、オレはそう思った。
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