きみと3秒見つめ合えたなら
 ゴールデンウィークが開ける頃には、私と桐谷くんの話がでることは全くなくなった。

 去年の今頃は桐谷くんの名前と顔も一致しない状態だったのに、運命というものは本当にわからない。
 
 相変わらず、私と景子を自転車で追い越しながら「おつかれさまです。」と言う桐谷くん。
 本当は、隣を通るだけでドキドキしている。

「今更なんだけど、実際のところ、桐谷と絢音ってどうなの?」景子が聞いてきた。

「付き合ってないよ。見てたらわかるでしょー?」
私は悟られないように、少し茶目っ気たっぷりに言ってみた。

「そうなんだけど。毎日2人を見てる私としたら、なんかお互いかばいあってるっていうか...無理してるように見えるんだけど。」
「噂があったから...かな。」

「それはあるかもね。あれから聞いてないけど...絢音は桐谷のことどうなの?」

 直球の質問にうろたえる私。
「え、う、うん。好きかな。」
ドキドキしながら正直に答える。

「早瀬くんのことは?」
「早瀬くんは優しいよね。ちょっと助けてもらったこともあって。だけど...」

「だけど?」
「ドキドキするのは桐谷くんだった。」

「ドキドキ...ね。なるほど。」
景子が妙に納得している。

そして、景子が続ける。
「実は、私、早瀬くん...なんか違うなって最近思ってきて。
 ドキドキしないんだよね。だから、絢音の気持ち、なんとなくわかる。
 なんでだろう、早瀬くん、カッコイイのにね。でも、よく考えたら、私にとっては、見た目がカッコイイだけだった。」

 景子、違うの?早瀬くんじゃないの?
 私の疑問とは関係なく、景子は続ける。

「でさ、桐谷に言ったの?好きって。」

「言ってない。噂のこともあるし、言えないかな。」

「確かにね。今はちょっと...って感じかぁ。」
景子がしみじみ言う。

「ところでさ、あと、実はもう一つ、絢音に言いたいことがあって...」
景子が少し言いにくそうにしている。

 なんだろう...

「私、付き合ってるんだ、山崎と。」
「え?」
私はびっくりしすぎて目が丸くなる。

「いつから?全然気づかなかった。」
若干、興奮気味の私。

「合宿終わって、絢音とサッカー場行った後に、たまたま...
う〜ん、あれはたまたま...じゃないよね、多分。
 帰りが一緒になって、告白されて。
最初は『絶対ない』って思ったんだけど、ドキドキさせてくれるのよね、意外と。
で、なんか、好きになっちゃったみたいで、私。
 今まで、追いかける恋しかしたことなかったんだけど...
 なんかいいよね、愛されてるって。」

 私は自分のことで精一杯で、全く気づかなかったけど。
 早瀬くんじゃなくて、山崎くんがドキドキさせる...とは少し意外だった。
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