きみと3秒見つめ合えたなら
「それくらいにしたら?」
オレは恭介ファンの女子の会話を遮った。

「本人が何もないってんだから、何もないんだよ。大勢で一人に言いがかりつけるって最悪だな。大体、証拠でもあるのかよ。そんなことやってるから、いつまで経っても恭介だって振り向かないんだよ。」 

 オレはイラついていた。
 恭介、ちゃんと相川を守ってやれよ。

 証拠、あったらヤバいな、と思ったが、あれば既に出回っているはずだと踏んだオレは強気に出た。


「は、早瀬さん...しょ、証拠はないんですけど、見たのは確かで...」

 急になんの関係もないオレが出てきて、驚いているのと、そんなオレに責められジタバタしている様子は、若干滑稽だった。

そして小声でブツブツ言うも、

「相川にごちゃごちゃ言う暇あったら、恭介に聞けよ。聞いたのかよ?」 
 更にオレは語気を強めた。

「桐谷くんには...」
彼女たちは蚊の鳴くような声で何を言っているかはわからなかった。

「もうこんなデマ流すなよ。相川がどんな思いしたと思ってんだよ。絶対流すなよ。流したら、恭介にお前らがデマ流した犯人だって伝えるから。」
 
 彼女たちは「わかりました」と言って、その場を後にした。

 はぁ、口が達者な奴らでなくてよかった...なんて、オレの方がホッとしていた。

「早瀬くん、なんで?」
 相川もオレが現れたことにびっくりしていた。

「わたし。」
校舎の影から美帆が出てきた。

「絢音がなんかヤバそうなの、みつけちゃって。私なんかが行っても、泥沼になりそうだから、聖斗、呼んできちゃった。」

 美帆は昔から優しい。正義感も強くて、若干おせっかい。それで誤解されることもあったようだが、オレはそんなアイツの性格は嫌いじゃない。

「女子同士のほうが話しやすいだろ?」
オレがいたら、相川は気を遣うだろうから、先に帰ることにした。

 ...というより、本音は目の前に相川がいるのがつらい。
 恭介に抱きしめられた...かもしれない相川の目が見れない。オレが大好きだったあの瞳はもう、恭介しか見ていないと思うと切なさがこみ上げた。
 
 その夜、美帆からスマホにメッセージが送られてきた。

『聖斗、ありがとうね。絢音を助けてくれて。やっぱり聖斗は優しい!』

 男は優しいだけじゃダメなんだよ、わかってないなぁ美帆は...なんて思いながら返信する。

『美帆も相変わらず優しいな。』
『珍しい!私のこと褒めた!
 あの時の聖斗、かっこよかったよ~。
 ドラマのヒーローみたいじゃん(笑)』 

 ぷっ。思わず笑ってしまった。
 ヒーローってなんだよ、全く。

『そんなに褒めたって、なにも出ないからなー』
『知ってるー。じゃ、おやすみ。』

 美帆とやり取りをしているうちに、気持ちが少し明るくなった。
 結構、落ち込んだ時とか、ベストなタイミングで美帆はいつも励ましてくれたりする。
 いいヤツ。感謝しないとな。
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