きみと3秒見つめ合えたなら
「おつかれさまです。」

「あ、桐谷。」
桐谷くんはいつもの様に私達を追い越さない。自転車を歩いて押していた。

「私、先、行くから。2人で帰って。」

 景子が要らない気を利かせる。
 私、今、恋愛はしないって、受験一筋って決意したところなんだけど。

 景子は早足で駅の方へ向かっていった。

「先輩、返信...してくれなかったですね。」
「別に、いいかなって。楽しそうにしてたし。」
 ...会話が続かない。

「2人で帰るのってヤバイですかね?また噂になっちゃいますかね。」
「...」

「先輩、怒ってるよね、なんか。」
桐谷くんは、今まで敬語だったのに急にタメ口になった。

「別に。」

「怒ってるじゃん。なんで?オレ何かした?」

「自分で思い出してよ。」
私は早足で坂を下る。

「待って。」
桐谷くんが私の腕を掴んだ。 

「自転車がなかったら、また抱きしめちゃうところだった。」
 桐谷くんが笑いながら言ったから。

 ぷっ。思わず吹き出してしまった。
「なに?思い出した?」

「心当たり、ないんだけど。オレ、ずっと相川先輩推し...なの、変わらないし。」

「春菜ちゃん。」
 ぼそっと呟く。

「春菜?」
 桐谷くんが全く心当たりありませんって顔をしている。

「随分仲良くしてたじゃない?春菜ちゃん、明るくて可愛いし、私なんかといるより楽しいんじゃないの?」 

「ハハハハ」
桐谷くんが笑う。

「な、なにがおかしいの?」

「先輩、焼きもち焼いてくれてるの?
かわいい!」

 かわいいって何よ...と思いながらも、声に出せず、顔がかぁ〜と赤くなるのがわかる。

 また、桐谷くんは私をドキドキさせる。
 
「まあ、春菜はかわいいよ。元気で裏表なくて...」
 
 ほら、やっぱり。
 春菜ちゃんのこと、好きなんでしょ。
 
 はぁ、もう、最悪。

 好きって気持ち、ずっと大切に温めてたのに、ちゃんと言う前に失恋じゃない?

 私がうつむいたままいると、桐谷くんが言った。

「オレと春菜、いとこなんだ。」

 予想外の返答に私はびっくりして、顔をあげた。
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