きみと3秒見つめ合えたなら

〜恭介side〜作戦

 まさか春奈が東高に入って来るとは思わなかった。
 しまったなぁ。あのお喋り春菜に相川先輩のこと、喋っちゃったよ。


 1年前の正月。親戚の集まりで。

「恭ちゃんって、最近ずっと彼女いないんでしょ?モテなくなったの?」
「バカ。モテるし。好きな人がいるんだよ。片想い。」

「えー。告白しないの?恭ちゃんだったら100%OKでしょ?」
「オレね、告白したことないんだよね。だから、告白の仕方、わかんなくって空回り。」

「へえー。意外。ね、どんな人?かわいいの?美人なの?芸能人で誰に似てる?」
春菜が、オレにまとわりついて離れない。

 昔から一人っ子の春菜は親戚の集りでは歳の近いオレを兄貴のように慕ってくる。自分より下の子たちには姉のように世話を焼く。

「春菜に関係ないだろ?」
「いいじゃん、お兄ちゃん。春菜のお姉ちゃんにもなるかもしれないでしょ?」

「ば、馬鹿か、お前。」
というやり取りを繰り返して、オレは根負けして、相川のことを教えた。

「足が早くて、かわいくて、特に笑顔が素敵で。頭もめっちゃいいみたいで、学年トップクラス。あ、ピアノも文化祭で弾いてて、上手かったー。そうそう、もちろん、めっちゃ優しくて。後輩からも人気なんだよ。でも、みんなの高嶺の花で。しかも先輩だから、部活しか共通点もなくて...」

 話始めたら、止まんなくなって、相川先輩のいいところを春菜に熱弁していた。

「恭ちゃん、めっちゃ好きじゃん、その先輩のこと。今まで、彼女さんのこと聞いたってさらっと、こんな人って感じにしか言わなかったに。」

「そ、そっか?」
急にオレは恥ずかしくなった。

「春菜も陸上の大会で、その先輩見たことあるかなぁ?」
 春菜も隣の市の中学校で陸上部に入っていた。

「あるかもな。」

「春菜、恭ちゃんの恋、めっちゃ応援する!任せといて。」
 何が任せといてだよ...と思っていたが。



 3月の終わり。
 春菜からスマホにメッセージが届く。

『恭ちゃん、私、東高に受かったよ!
4月からよろしくね。私も陸上部入るから!』  

 ヤバいと思った。アイツ絶対余計なことしそうだし。みんなに言いふらさないか心配だった。

 しかも、そのメッセージが来たのは、ちょうど先輩を抱きしめてしまった翌日で。
オレの頭は混乱していた。

『誰にも言うなよ。オレのこと。本当に何もするなよ。』念を押す。

『はーい。いとこってのも秘密にする?』

 どうしようか。
『いとこだからって色々頼まれたり、気を遣われたりするのもお互い面倒だから、あえて言わなくてもいいか?まぁ、誰かに聞かれたら、言う、みたいな?』

『わかったー。桐谷先輩。』


 オレの心配をよそに、春菜は自然体で部活にも馴染んでいた。
 ただ、相川先輩にはオレが嫉妬するくらいベタベタしていた。先輩もかわいい後輩という感じでよく面倒を見てくれていた。

 オレと先輩の間にあった出来事は春菜には話してはいない。本当のことも。噂話のことも。
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