きみと3秒見つめ合えたなら
 そして、私たちはそれぞれ、帰る。

「絢音先輩、大学行ってもさ、オレのこと、忘れないでよ。めっちゃイケメンとかにアプローチされても、好きにならないでよ。」
桐谷くんは会えばそればっかり、心配している。

「大丈夫。恭介だって、かわいい後輩なんかにころっといっちゃうでしょ?」
桐谷くんはモテるから、私の方が心配しているんだけど。

「絶対いかない!誓えるし。」
私たちは笑い合う。

「誓いのキスする?」
 桐谷くんがふざける。
「また、そんなこと言ってー。」

「しようよー。あの日以来、ずっとしてないじゃん。」
 かわいく、お願いする桐谷くん。

「絢音って言ったらしてあげる。」

「うわっ、いじわるー。」

 私も桐谷くんに冗談なんかを言えるくらいになっている。

「あや、あや...あー緊張する。」
頑張って言おうとする桐谷くんが愛おしくって、逆に意地悪したくなる。
「無理ならしなーい。」

 本当は私だって、桐谷くんとキスがしたいのに、焦らしてみる。

 意を決したのか、ひとつ呼吸をして、私の肩に手をおいて、桐谷くんは言った。

「誓うよ。
 オレが好きなのは絢音...だけ。」

「うん。...じゃ、いいよ。」
私も照れくさくなって、顔が赤くなる。

 少し背伸びをして、目を閉じると、優しいキスが舞い降りてきた。

 こんなに好きになるとは思わなかった。

 同時に目を開けて微笑み合う。

「誰かに見られてない?」
「もう、いいよ。先輩、卒業するし。」

 今まで、かなり警戒して、「清く、正しく」していたのに、今日の私たちは少し大胆だ。


「あ、そうだ。これ。」
私は桐谷くんにゴールドのリボンがかかった赤い包み紙を渡す。

「何?これ。」
桐谷くんがきょとんとしている。

「試験で遅くなったけど...バレンタインの...」言い終わらないうちに、桐谷くんが私を抱きしめた。

「きゃっ。どうしたの?な、なんで?」
抱きしめられたのも、あの春のホーム以来だった。

桐谷くんの鼓動が聞こえる。
ドクン、ドクン...心地よい響き。

「先輩、大好き。」
耳元で囁く甘く優しい声にゾクッとする。

ドキドキし過ぎて、照れくさくって、
思わず...
「あ、また、先輩って言った。」
なんて言ってしまった。

「もう、先輩、いい雰囲気作ってんのにー。」
 桐谷くんがスネる。

 付き合うまで知らなかったけど...
桐谷くんは「オレ様系」かと思ってたけど、意外とかわいい。そういうところは、ドキドキじゃなくて、私をキュンとさせる。

「ごめん...」
 
 私が呟くと、もう一度、桐谷くんが私を強く抱きしめる。

 あれ?さっきより鼓動が速い... 

「絢音、大好きだよ。」
 そっか、桐谷くんは、絢音って言うの、すっごい緊張する...みたい。

「うん。私も。」
そう言って、私は桐谷くんを見上げる。

「もう、やばい、かわい過ぎる...」
桐谷くんが私の髪を撫でた。


 1秒...2秒...3秒...見つめ合って、
 私たちは、
 本日2度目のキスをした。
 
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