きみと3秒見つめ合えたなら
 なんだか落ち着かない1週間を過ごし、とうとう練習試合の日が来た。

「おはよう美帆、今日は、よろしくお願いします。」
 待ち合わせのサッカー部の部室前で部員の荷物整理をしていた美帆に声をかけた。 

「何、絢音、緊張してるの?
よろしくお願いしますはこっちのセリフ。
絢音が来てくれて助かるー。
 私は試合のデータ取ったりするから、絢音はお茶作ったり、タオル渡してあげたりしてほしいんだ。」
 美帆は一旦、作業の手を止めて、私に部員用のタオルを渡した。


 え...タオル渡すの?めっちゃ緊張しそう。ちゃんと渡せるかな。
 私は抱きかかえるようにして受け取ったタオルを見て、手伝いに来たことに少し後悔する。

 そして試合が始まる。
美帆が言ってたとおり、早瀬くんはスタメン出場していた。
 気がつけば、早瀬くんを目が追っていた。 

 いつも遠くからで、初めてサッカーをする早瀬くんを近くでみた。
 
走るのも速くて、相手からボールを奪い取るのも華麗な感じがした。

 かっこいい...と初めて思った。

そうだ、私はこうやって男子をちゃんと見たことがなかった。

 陸上部の男子にだって「ファイト」なんて声はかけるが、とりあえずって感じで彼らをちゃんと見たことがない。
 ヤバイな、私。と自分でも笑えてくる。

 ハーフタイムに入り、美帆がキャプテンと話している。

「絢音、タオル」
美帆に言われて慌てて、タオルを部員に渡す。

「おつかれさまです。」
男子に免疫のない私は、うつむき加減でタオルを配る。顔を見れない。

「ありがとう、相川さん。」
急に誰かに声をかけられて顔を上げる。

「あ、は、早瀬くん...」
びっくりしたのと同時に、顔が赤らむのがわかった。
 
 意識しすぎ?
 
 そんな私を気にすることなく、早瀬くんは私から受け取ったタオルで顔を拭いていた。
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