きみと3秒見つめ合えたなら
 後半戦はほぼ上の空だった。
 
 それでも目は早瀬くんを追っていた。
試合には勝利した。

「相川さんって勝利の女神だよなー。」
「また、来てよー。」
なんて大げさに部員たちが持ち上げる。

 恥ずかしくて
「いえいえ、私は、そんな...」
気の利いたことも言えず、つくづく可愛くない女だと思う。あぁ、早く帰りたくなってきた。

「絢音。ありがとね。もうすぐ私も片付くから、待ってて。」
「うん。」

 私は、サッカー部員に話しかけられないように、そっとグラウンドを後にして、校門で美帆を待つことにした。
 美帆を待つ時間がとても長く感じた。


 30分後、校門に美帆がやってきた。
「おまたせ、絢音。部室前にいてくれてよかったのに。今日はありがとうね。」

「全然。ほんとにお茶作って、タオル渡しただけだし。」
 内心は疲れたという気持ちが大きかったけど、かっこいい早瀬くんを見ることができた...という収穫もあった。

「ね、お礼にドリンクバー奢るから、ファミレスいかない?」

 試合にも勝ったし、美帆もマネージャー一人で大変だったし、私が「おめでとう」って奢りたいくらいだ。

「行く!あ、別にお礼はいいからね。」

 そして美帆とドリンクバーでおつかれさま会。私達はいつものようにドラマの話や音楽の話で盛り上がっていた。

「ところで...」
「ところで?」
美帆があらたまって聞いてくる。

「聖斗のこと、好きだよね?」
直球過ぎて飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになった。

「す、好きじゃないわよ。」
思わず否定する。
「そうなの?ふ〜ん。そうなんだ。」
レモネードを飲みながら、納得いかなさげな美帆。

「ま、いいけど。ようやく、絢音も恋するようになったかと思ってたけど。なんかあったら相談乗るからね。」

 美帆に心が読まれているのか、私が顔に出ちゃうのか、わからないけど...

「あ、ありがとね。」

 動揺しながら答えた私の額は空調も効いているのに、汗ばんでいた。
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