きみと3秒見つめ合えたなら
 6月になると、部活では総体地区予選がはじまる。
 3年生の先輩にとっては最後の試合が近づいてくる。

 練習にも熱が入り、部活中に早瀬くんのことを目で追う余裕もなくなってきた。

 そんな程度って、私って早瀬くんのこと、本当に好きなのかしら?

 きっと美帆が焚き付けるから、
早瀬くんのこと「好きかも...」なんて、
思っちゃっただけなのかも、と最近思うようになってきた。


 いつもの様に景子と帰宅。
「松村先輩に告白しちゃおうかな。」
 
 突然の景子の発言に思わず足を止める。
「え?景子、松村先輩のこと好きだったの?全然気づかなかった。」

 再び歩き出した私に、景子は遠くを見ながら言った。
「私なりに先輩にはアピールしてたんだけどなぁ。先輩が引退したら、多分、会えないし。」

 私は本当に恋愛に疎い。

 そういえば、高跳びを専門とする景子は、同じく高跳び専門の松村先輩とよく練習について話しはしてたけど...と思い起こす。
 松村先輩は背も高くて9頭あるんじゃないかってくらいにスタイルもいいし、かっこいい。

「でも、バレー部に彼女さんがいるから、振られるのは確定。」

「え?じゃあ、今のままが良くない?告白したら気まずくなるんじゃない?」
恋愛未経験の私には、恋には何が正解かわからない。

「そうなんだよね。だから、迷ってる。」

 やっぱり、恋は難しい。
 好きな人が、自分を好きになるとは限らない。

 一方通行の恋は苦しいのだろうか、やっぱり。

 それとも、恋するだけで、それでも楽しいのか。

 恋愛未経験の私にはまだまだ難しい。

 私たちはいつもよりゆっくり坂を下っている。

「絢音は?」
景子がふいに尋ねてきた。

「なにが?」
「好きな人、そろそろできた?」

「うーん。どうかな?」
自分でも、わからない。

「え?今まで聞いたら、いるわけない!って言ってたのに、どうした?誰よ?」
景子が目を輝かせて聞いてくる。

 恋する女子は他人の恋にも敏感なのか?

「え?えっと、まだ、その...好きっていうか、気になるっていうか、いや、違う、
うん、違うの。」
焦って何言ってるか自分でもわからない。

「ほぉ。お嬢様もようやく恋に目覚めてきましたか?」
景子が私の前に立って、ふざける。

「もー、違うってば!
最近ね、美帆や友梨にちょっと刺激されちゃって...。
恋、してみようかなーなんて、ちょっと。」

 私があまりに焦っているのが面白いようで、景子が楽しそうに笑ってる。
私も必死に否定する自分に笑えてきた。

「おつかれさまっすー。」
今日も後輩くんが自転車で通り過ぎていく。

「おつかれさまー。」
私達はそのご機嫌なテンションであいさつを返した。
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