きみと3秒見つめ合えたなら
 さすがに地区予選から県大会に進む先輩は多くいたが、県大会で敗れ、7月末には先輩たちはみんな引退してしまった。

 文武両道を謳う東高では、3年生は受験勉強一色となる。

 8月。夏休みの部活は先輩がいなくなっただけで、ガラリと雰囲気がかわる。

 少し寂しいグラウンドでのミーティング。
「今日から新体制となる。キャプテンだが、3年からの指名で男子は山崎。女子は相川でいく。」
ゴンちゃんが山崎くんと私を呼ぶ。

 先輩からは打診があったけど、私なんかで大丈夫なのかしら。
 まぁ、しっかりしている山崎くんが男子キャプテンなら、なんとかなるか。

 不安もあるけど、がんばろう、と私は前向きだった。

 夏休みは秋の新人戦に向けても、練習の質も量も上げていく。

 灼熱の太陽の照り返しが強いある日のこと。みんなはかなり練習にバテていた。

「よし!最後は夏休み恒例の全員リレーやるぞー。」ゴンちゃんが全員を集めて、グラウンドに座らせた。

「えー。まだ終わらないんですかー?」
なんて愚痴を言う部員がいる中、ゴンちゃんが今日のタイムを確認している。

 全員リレーは、その日のベストタイム、トップ5をリーダーに均等な走力になるよう振り分けていき、リレーを行う。

 走順は各チームで考える。
走力はほぼ均等なのに、接戦になったり、大差がついたりとおもしろいので、私は嫌いではない。

「今日のトップ5は...3年の山崎、島田、木田、佐々木と...2年桐谷。前に出てこ〜い。」
5人が前に並んで座る。

ゴンちゃんがどう分けようか、記録表とにらめっこしている時だった。
「...がいいなー」
おそらく、桐谷くんが何かつぶやいた。

「ん?桐谷、今なんて言った?
相川がいいって言わなかったか?
なるほどー。お前、相川が好きなんか?」

 本日、ご機嫌のゴンちゃんが調子に乗って訳のわからないことを言っている。
 ゴンちゃんは時々、学生みたいな悪ノリをする。

「おい、相川。桐谷が同じチームにしてほしいってよ。さて、どうするかなぁ。」
ゴンちゃん、楽しんでいる。

 私は顔が赤くなってるのが自分でもわかる。

 っていうか桐谷くん...?
 何言ってるのよ、もう、やめてー。

 心の中で叫ぶ。

 何か気の利いた事でも言えればいいけど、やっぱりできなくて。

 桐谷くんは「先生、お願い!」って手を合わせているらしく、みんなはそれを見て笑ってる。

「今日は同じチームにはしてやら〜ん。」
そう言ってゴンちゃんはチーム分けを続けた。

 顔から火が出そうな私はもう、顔をあげられない。

 チラッと桐谷くんを見た。

 あれが、桐谷くんか...。

 恥ずかしながら、新入生、女子は覚えたものの、男子は覚えてなくて、初めての桐谷くんの顔と名前が一致した日でもあった。
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