きみと3秒見つめ合えたなら

〜聖斗side〜勝負

 雲ひとつない青空。
 
 まさに体育祭日和。
 
 相川絢音と同じクラスだったら、良かったのに...と思った。
 心の中で応援するか...。 

 相川は陸上部のエースだけあって、忙しそうだ。

 やっぱり速い。

 いつもはかわいい相川だけど、こんな日はすごくカッコよく見える。

「プログラム5番。次は2年生の女子リレーです。各クラス5名の代表が走ります。みなさん応援よろしくお願いします。」

 アナウンスが流れて、駆け足で入場する黄色いはちまきをした相川を見つけた。

「位置について、ヨーイ」

 スタートして、オレは自分のチームを応援しているふりをして、相川を見失わないように見つめていた。

 相川はアンカーだった。

 どんどん加速し、前を走るA組を捉えると、一気に抜き去り、1着でゴールした。

 そのあと、美帆と嬉しそうに抱き合っていた。


 リレーが終わった後、美帆がオレのところにやって来た。

「聖斗、ちょっと。」
そう言うと、オレは腕を引っ張られて、テントから連れ出された。
そして、後ろの人目の付かない自転車置き場まで連れてこられた。

「なんだよ、美帆。」
オレは急にやって来て、わざわざこんなところに連れ出されたこともあって、不満げに言う。

すると、美帆は自分の腰に手をあてた。
昔から、怒るときは、この恰好をする。
「あんたさ、のんびりしてると、取られちゃうからね。」
ちょっと大きな声でオレに詰め寄る。

「はぁ?何の話だよ。」

全く意味がわからないまだまだ不満げなオレに美帆は腰から手を離して続けた。

「恭ちゃんが、絢音推しで...」
「恭介が、あやねおし?なんだそれ。」

自分で声に出して気がついた。
『絢音推し』だ。
うっかり、美帆につられて絢音と言ってしまった。

 恭介は美帆に、相川のこと、いろいろ聞いていたみたいだし...
『絢音推し』、なるほどな、なんて妙に納得していると、美帆が話を続けた。

「恭ちゃんって、クラスが違うのに、絢音のこと、めっちゃ応援してて。
最初は、絢音のこと、からかってんのかな?って思ったんだけど...
違うかなって。」

 ただの推し...だろ?
 あー、なんかモヤモヤする。

「部活の先輩だから応援するんじゃないの?」と、そうであってほしい願望を美帆に言う。

「でさ、この前もだけど、なんでオレに、恭介のこと、いちいち報告するんだよ?」

「好きなんでしょ?絢音のこと。」

 ストレートに美帆に聞かれて、胸がドキっとした。

 バレてたか。

 ...恭介のこともあるし、正直に言ったほうがモヤモヤした気持ちが少しは晴れるかもしれない。

「あ、...気づいてた?」
冷静を装っているが、心臓はバクバクしていた。

「だいぶ前からね。」
 いつからだよ...と思いながらも、相川と恭介の事が気になって仕方がない。

 同じ部活って、今のオレよりアドバンテージあるじゃん。

「そっか。気づいてたかー。でさ、美帆は、相川が何て思ってるか、知ってんの?恭介のこと。」

「推しの件は、からかわれてる、と思ってるかな。」

「ふ〜ん。わかった。恭介は強敵だな。」
嫌なこと聞いたな...と思いながら美帆と別れて、お互いのテントに戻った。

 そのあと、A組のサッカー部のやつのところへ行くふりをして、恭介の様子を見に行った。

「相川せんぱーい、ファイトー。」

「恭介、ちゃんとA組の応援しろよー。」

「オレ、相川先輩推しだから。」

...美帆が言ったとおり。

 相川、大丈夫かな?
こんな風にされるのって、相川って嫌じゃないのかな?



 午後、部活対抗リレーの待機所で、相川を見つけた。
 3年の先輩と楽しそうに話をしている。
よかった。

 オレの気にし過ぎかな?

そして、恭介を見つけた。
「恭介ー。久しぶり。」
声をかけてみた。

「聖斗くん。久しぶり!
聖斗くんもサッカー部で走るの?」

「まあな。ところでさ...」
恭介に聞いてみた。

「恭介ってさ、...間違ってたらごめん。2年の相川絢音のこと、好きなの?」

 まさかオレにそんな事聞かれるとは思わなかったようで、ちょっと驚いていた。

「違った?組が違うのに相川のこと応援してるからさ。どういうつもりなんかな?って思って。」

 驚く恭介に畳み掛ける様に聞いた。

 オレ、言い方きつかったかな?
なんて考えていると、

「相川先輩のこと、好きだけど、オレ。」
 
 恭介があまりに素直に認めるものだから
頬が緩んでしまった。

「恭介とライバルかぁ。」
恭介にライバル宣言する。

「え?」
あまりに突然で恭介はびっくりしていた。

「っていうか、お前、彼女いたよな?」
気になってたことを聞いてみる。

「誰にも言ってないんだけど、結構前に別れてるんだ。聖斗くん、もしかして、相川先輩のこと、好きなの?」

 もう後にはひけない。

 オレは正直に答えた。

「1年以上、片想いだけど。ガードが硬いから、相川。
それより、リレー、負けないからな。
そうだ!オレがさ、もし陸上部を抜いたら、相川のこと、諦めてよ。
ライバルは少ないほうがいいから。」

 馬鹿なこと言ってるな、と自分でも思った。

「聖斗くんのお願いでも、無理かな。」

「生意気な〜」と言って、オレは小学生の時の様に恭介の頭をクシャクシャにした。
 
 本当は本気で「諦めてよ」と言ったが、あまりにも大人げないので、冗談だった...っぽく振る舞う。

 部活対抗リレーは男女ともに陸上部が優勝し、体育祭は幕を閉じた。

 今まで走ってきた中で一番緊張した。

 体育祭前は「ちょっとパフォーマンス的な感じで走ろうぜ」と先輩に提案されていたが、「やっぱり真剣勝負で行きましょう!」と先輩を説得した。

 とにかく、恭介には負けたくないという思いで陸上部を追った。
 背中が見えた...と思ったが、さすが陸上部。

 追い抜くことはできなかった。

 オレの頑張りは不純な動機からくるものとは知らず、打倒陸上部と、学校全体がオレを応援してくれた。

 あんなに声援を受けたのはサッカーの試合でもないな、と思った。 

 体育祭の帰り、下駄箱で美帆と一緒になった。2人で自転車置き場に向かう。

「速かったじゃん、聖斗。
体育祭イチ、盛り上がってたよー。
試合でもあのスピード出してよー。」

 美帆がテンション高めに話しかけてくる。

「恭介さ、相川のこと好きなんだってさ。」

 ザワついている心の声を、なぜか誰かに聞いてもらいたくて美帆にいう。

「あ、うん。」

 美帆はオレが急にこんなことを言ったのでびっくりしたようだった。

 2人の間に沈黙が続いた。

 自転車置き場に到着した時、
「強敵だよな。」
 オレは美帆に問いかける。

「そんなことないと思うけど。」
とだけ言って、美帆は黙った。
そんなことあるよ...,心の中で返す。

「じゃ、オレ、先行くね。」
と言ってオレは自転車を漕いだ。
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