きみと３秒見つめ合えたなら

　新人戦当日。　
　最終種目の男子リレーの招集が始まった。

　メンバー4人にゴンちゃんが檄を飛ばす。
「お互いを信じて、全力で行け。」

「信じるか...」オレはつぶやく。

「恭介...オレはお前を信じる。恭介も、オレを信じて全力で来い！絶対受け取るから。」

「聖斗くん...おぅ！」

　やっぱり、小学生の時から変わらない、頼れる兄貴だ。

　そう認めると、なんか気持ちが楽になった。

　今日は、強がってないで聖斗くんに任せよう。

「オンユアマーク」

　オレは佐々木先輩からバトンを受け取ると更に加速した。

60m...70m...80m...

「恭介ー、来い！」

　聖斗くんがスタートを切る。

　聖斗くんの背中が近づいた。

　今だ。

「ハイ」

　聖斗くんの右腕が後方に出されたと同時に、オレが持ったバトンが聖斗くんの掌に収まる。


　バシっ。


　...繋がった。

　ギリギリだったかも、しれない。

　聖斗くんが無事に山崎先輩にバトンを繋げ、東高は若宮高と競いながら、フィニッシュした。

　オレたちが喜ぶ中、審議がかかった。

「大丈夫、オーバーしてない」
聖斗くんが力強く言った。

「只今の高校男子リレーの結果。
1位さつき学園　40秒57　
2位西海大付属 41秒28
3位県立東 43秒75　.
4位県立若宮　43秒78」
「やった〜!」「よし！」
テントではみんなが喜んでいた。
相川先輩の喜ぶ顔が見られてよかった。


　閉会式後、テントをみんなで片付けていた。

「恭介!」
オレが振り返ると、そこにはエリがいた。

「恭介、おめでとう。ずっと今日、応援していたのよ、私、あそこで。」と、スタンドを指差す。

「恭介！」
オレの反応が薄かったからか、エリはもう一度、オレの名前を呼ぶと
「会いたかったんだから。」と言って手を握ってきた。　

　みんなが、そして相川先輩が見ていた...

オレはそっと彼女の手を振りほどいた。

　もう一度ちゃんと別れを言おう。
「エリ。片付けたら、解散だから、待ってて。」
「うん。じゃあ、駐車場のベンチで待ってるから。」
小走りで彼女はグランドをあとにした。


　その時だった。
「相川！危ない！」と誰かが叫んだ。

バランスを失ったテントが相川先輩の方へ倒れかけた。

　オレは反射的に駆け寄っていた。

「大丈夫でしたか？」
「大丈夫。」

　相川先輩は素っ気なく返事をして、オレの向こう側に目線を移していた。

　なんか、嫌われてるかな、オレ。
　そんな不安にかられる。



　そして、オレはエリに別れを伝えた。

「好きな人がいるから。」
「その人を一番大切にしたいから。」
「その人のことしか考えられない。」
「オレがその人を笑顔に、幸せにしたい。」

　...だからもうエリには会わない、と。

　彼女はなかなか引き下がらなかっ
たが、「恭介がヨリを戻したいと言っても、絶対戻さないけど、いいのね？」と逆ギレし、ようやく別れが成立した。

　オレは、本気で相川先輩の事が好きだ。

　でも、先輩は聖斗くんを見ている。

　どんなに頑張っても、届かない。