きみと3秒見つめ合えたなら

〜恭介side〜要らない

 バレンタインの日。

 オレは何を期待してるんだ?

 自慢じゃないが、毎年、結構チョコはもらっている。

 だけど、今年は、渡しにきてくれた女子には悪いが断わった。

 みんな、エリがいるから...と思っているようだが、あの大会以来、もう会っていない。


 オレが断る理由はもちろん、相川先輩だ。


 秋の大会の頃から、相川先輩は素っ気ない。

 はじめのころより少し近づけた...と思っていたがそうではなかったようだ。

 なんだか開き始めた扉が一気に閉ざされたような。

 話かけることもできなくて。

 冗談ぽく接したら、今より相手してもらえない...そんな気がしていた。

 だから、相川先輩から...なんて何もないだろう。
 だけど...本当に、好きで、
1mmでも期待しているオレがいる。


 いつもの様に部活が終わる。

 ただ女子がざわざわしていた。

 チョコを渡す渡さないので、モタモタしている1年を佐山先輩が仕切っていた。

 佐山先輩もほっとけばいいのに。

「絢音も配って、ハイ。」
相川先輩もチョコを渡されているようだ。

 今日はグランドの電球が切れてしまって周りがよく見えない。

 相川先輩はどこにいるんだろう...ぼんやり歩いていたら、誰かとぶつかってしまった。

「ごめんなさい、見てなくて...」 
相川先輩だった。

「すみません。」

 オレもびっくりして、それ以上の言葉を発せなかった。
 久しぶりに話した会話がこれだった。

「もう、それ渡しといて。」
佐山先輩が相川先輩に言う。


その時、
「オレ、そういうの、要りませんから。」
...言ってしまった。


「あ、そ、そうだよね。だよね。ごめんねー。じゃ、おつかれさま。」

 相川先輩が久々にオレにかけた言葉は早口で、オレの前からすぐに消えていった。

 相川先輩から、受け取ればよかったのに...。


 いや、違う。

 そんな適当なバレンタインを受け取ったって嬉しくはない。

 何でもいいわけじゃない。

...だけど、あの言い方はなかったよな。
反省しかない。もっと気の利いた言い方をすればよかった。
 何なら、「先輩からのチョコがほしいです!」なんて、素直に言っても良かったのに。
 あぁ、心の奥が痛い。

 そんな思いを引きずりながら、家に帰った。

 家に帰ると、茉莉が妹と家に来ていた。

 茉莉は妹と一緒に、オレにチョコを渡して帰っていった。

 相川先輩からしか貰わないって決めていたのに。

 家に帰ったら、気が緩んでしまったのか、相川先輩との事が何となくショックで思考低下していたのか、茉莉からのチョコを受け取ってしまった。
< 48 / 129 >

この作品をシェア

pagetop