きみと3秒見つめ合えたなら
 あの日以降、景子とは全く話せていない。

 部活を休むわけにもいかず、微妙な距離を取っている。

 桐谷くんともあの日以来、一緒に帰ることはない。
 桐谷くんが気を遣っているのか、たまたまなのかはわからないが、帰り際、一緒にならなくなった。

 サッカー部の方を景子には見つからないように見たが、早瀬くんはいつもどおりに思える。

 そんなある日。
 いつものように、部活が終わって一人で帰ろうとしていた時、美帆に呼び止められた。
「ねぇ、絢音。何かあったの?聖斗もちょっと変な感じがするんだけど?」
さすが美帆、気づいている。

 美帆に相談する?

「言えないことなら、言わなくて大丈夫。いつでも相談乗るからね。」

 美帆の言葉が心に染みる。
今まで仲良かった景子とこうなってしまった寂しさもあって、心の中で抑えていたものが溢れ出しそうになる。

 ぐっとこらえる私の様子に美帆が気づく。

「絢音、どうした?私、悪いこと聞いちゃった?ごめん。」

「ちがうの。美帆が優しくて...」
一呼吸おいて、美帆に話してみようと思った。
 
 私たちはグラウンドの隅に座った。まだ野球部がライトを付けて練習していた。

「あのね...」
私は全て話した。
景子がいないとき、桐谷くんと一緒に帰ったこと。

 何も話さないのに、なにか心地よく感じてしまったこと。

 そんなときに、景子と早瀬くんが、一緒にいるところに遭遇してしまったこと。

 その後、景子に「色目を使ってる」と言われたこと。

 美帆に伝えていく中で、私はずっと、桐谷くんにからかわれて困ってる...なんて言いながら、早瀬くんにも桐谷くんにも、想われていたい...なんて心の奥では思っていたズルい女なのだと、気がついた。
 景子のいうことは、間違ってないのかもしれない。

「そっか。
そんなことがあったんだ。絢音、苦しかったね。
 私、あの2人のどっちも知ってるけど、タイプは全然違うよね。
優しい聖斗と、イケイケな恭ちゃん。
 私が言えるのはどっちもいいヤツなのよ。」

「私、友達失くすくらいなら、やっぱり恋なんてしない方が良かったな。」

「そんなことないよ。ゆっくり2人の間で悩んだらいいじゃん。
 景子ちゃんのことは、そのうち解決するよ、きっと。
 もしかしたら、2人とも絢音の王子様じゃないかもよー(笑)」

 美帆と話して、少し楽になった。私が好きになった人が、そんな私を好きになってくれたらいい。

「美帆、ありがとうね。」
「大したこと言ってないけどね。」
そう言ってから、「帰ろうか」と、美帆は立った。

 私も立とうとした時、ふと思った。
「そういえば、美帆って、好きな人とかいるの?いつも、私の相談にのってくれるけど。」

「今は恋はお休み中...よ。」
美帆は笑って言った。
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