きみと3秒見つめ合えたなら

〜恭介side〜チャンス到来

 最近、相川先輩は一人で帰っている。

 声を掛けていいものか...と悩んだが、なかなかないチャンスでもある。
勇気を出して声を掛けた。

「お疲れさまでしたー。あれ?先輩、今日、一人ですか?」
 バレンタインのことがあったので、あの日とは対象的なかんじでテンションをあげて、できるだけ明るく、声をかけた。

 相川先輩は寂しそうに
「うん。景子。用事があるみたいで。」と言いながら歩きつづける。

 オレは自転車を降りて、
「少しだけ、一緒してもいいですか?」
と言ってみた。

 相川先輩はびっくりしたのか、立ち止まり、「一緒は無理」と言いたげだった。
とにかく必死で否定される。

 そんなに嫌か?
なんとか、オレも粘り、やっとOKがでた。

「そこまででなら...でも、でも誰かに見られたら、誤解されちゃう...ほら、彼女とか。」

 相川先輩はまだオレがエリとつき合ってると思っているようだった。

「誤解ってなんですか?
オレ、何にも気にしませんから。
彼女って、夏に別れてますけど?」

 相川先輩は聞いているのか、聞いていないのか、無言のままだ。

 気が変わらないうちに早く歩こう...と思ったのに

「おー、恭介ー。一緒にかえろーぜー。」
と、同じクラスの松野の声だ。

「ど、どうぞ。」
相川先輩は、オレに松野と帰るよう促す。

 あぁ、本当にツイてない。
「先輩と帰るから」って言いたい!
だけど、多分、あの様子だと、また困らせてしまうだろう。

「先輩、さようなら。」
オレは大人しく松野と帰ることにした。
残念な気持ちが全面に出て、かなりぶっきらぼうに言ってしまった。

「恭介、さっきの先輩って例の先輩?」
松野が聞いてきた。
「なんだよ、例のって。」

「体育祭で推してた、足の速い先輩じゃないの?なんだっけ?あやめ先輩?」
全然ちがうし。

「相川あやね、先輩だよ。
何で、声かけるんだよー。せっかく、少しだけ一緒に帰れるところだったのに。」
思わず愚痴る。

「ごめん。隣が誰かわかんなくって。とりあえず、お前に声かけちゃった。ってか、まだ推してんの?あれってウケ狙いじゃなかったのかよ。」

「オレ、推しどころか、かなり本気なんだけど。」
急なオレの告白に松野の驚いた顔。

「そ、そうなんだ。悪かったな、邪魔しちゃって。っていうか、あの美人の彼女は?」

「いいよ、まだまだ、チャンスはあると思うし。
でさ、彼女ってエリのこと?
別れたよ、だいぶ前に。
別れたから、相川先輩じゃないから。
相川先輩が好きだから、エリと別れたんだから。」
 
 オレは聞かれてもないのに、松野に相川先輩への想いを語る。

「先輩、好きになるって、結構な勇気いるよな。」
「でも、好きなんだよなぁ…」

オレは松野と一緒に帰った。
まさか松野と恋愛話なんかをするとは、思わなかった。
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