きみと3秒見つめ合えたなら
 しかし、そんなオレにもまだチャンスがあったようで、運良く、数日後、先輩と帰りが一緒になった。

「相川先輩!」
勇気を出して、声をかける。

「あ、桐谷くん...」

 なんか元気がない気がした。
「先輩、疲れてます?」
オレは、自転車を降りて歩きはじめた。

「疲れてる様に見えるかな?」
「ちょっと、ですけど。」

 自然と相川先輩と歩いていることに気づいた。

 ヨシっ!

 だけど、なぜかやっぱり緊張して話せない。

 よくよく考えると、今までの彼女とだったら、2人になってもこんな緊張することはなかった。
 やはり、相川先輩は特別なんだ...。
 そう認識すると、余計に緊張してきた。

 分かれ道が近づく。
 この時間がもったいない。
 何か話題を見つけないと...。

 オレは、何か話せる話題がないかと、目だけを動かして、情報収集する。

「あ、聖斗くん。え?佐山先輩?」
思わぬ光景が目に入ってきて、思わず声に出てしまった。

 え?なんで?
 オレは目を疑った。
 あの2人、たまたま一緒にいるだけなのか?でも、オレと相川先輩みたいに、自転車と歩き...ってことは、聖斗くんが、わざわざ、歩いてあげてるわけで...。
佐山先輩の彼氏って、聖斗くんなの?

 聖斗くんも驚いているようだった。

「恭介? ...相川と一緒なの?」
聖斗くんも、驚くよね。
オレと相川先輩が一緒に帰ってたら。

「まぁね。」
相川先輩は何か言いたげだったが、一緒に帰っていたのは事実なわけで。

 4人の間に不穏な空気が流れた時、数秒の沈黙を佐山先輩が破った。

「ね?早瀬くん。こういうことだよ。行こう。」と聖斗くんを引っ張ってその場を去った。

「つきあってるんですか?あの2人」
オレは、相川先輩に聞いたが、先輩も動揺しているのか
「どうなのかな...」と言ったきり、黙ってしまった。

 その後は、先輩はショックだったのか、無言のままで。
 オレは「先輩、お疲れ様でした。」と言って、先輩と別れ、それぞれの方向へ帰った。

 その日以降、相川先輩と佐山先輩には距離があるように感じた。

 相川先輩も寂しそうで、何か力になりたい...と思ったが、オレが相川先輩に関わると、逆に佐山先輩を刺激しそうに感じた。

 そうなると、余計に相川先輩を悲しませような気がして、今は、そっと見守ることにした。

 聖斗くんは佐山先輩とつき合ってるのだろうか?
 相川先輩のことはもう、なんとも思ってないのだろうか。

 聖斗くんは、あんなに相川先輩のことになると、真剣で、オレも怯んでしまいそうになるくらいだったのに、もう、いいのか?

 だったら、遠慮なく、相川先輩に行かせてもらう。
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