きみと3秒見つめ合えたなら
「え?なんで?なんで、早瀬くん?」
相川は目の前にオレがいたので、かなり驚いていた。

『ドアが閉まります。』
プシューと音を立ててドアが閉まる。
しまった...すぐ乗るつもりだったのに。

「オレ、今日から、御山サッカー場で県代表合宿なんだ。」

「県代表に選ばれてるの?スゴいね、早瀬くん。」
相川に褒められてちょっとテンションがあがる。でも、相川のおかげだから、言えないけれど。

「それより、大丈夫か?その...」
言いづらい...
「触られてただろ、痴漢?」
ごめん、相川。

「...うん。」
「我慢してただろ?見てられなくて、相川の手、引いて...降りてしまった。撃退する方法とかもわかんなくって、ごめん。」

「ありがとう。助かりました。」
丁寧にお礼を言う相川がますますかわいい。

「いや。本当に見てられなくて。
でも、ヤバい。この駅って1時間に1本しか止まらないんじゃなかったっけ?」
 確か『東湊』は工業地域で、電車は1時間に1本なはず。

「え!そうなの?早瀬くん、合宿の時間大丈夫なの?」
「一応、14時集合だから何とか。合宿参加するやつと昼ごはん食べる約束してたから、ちょっと早めに行ってたんだ。」

「お昼、食べれる?」
相川は自分が大変だったのに、オレのことを心配してくれる。

「何とかする。相川は?時間。」

「私は完全、無理かな。御山公園ついたら、私、行方不明になってる、きっと。恥ずかしいなぁ、引率が降りる駅を間違う...って。」

「なんか理由、考えよっか。その..
痴漢は言いたくないだろ?座ろっか、そこ。」

 オレ達は誰もいないホームのベンチに腰掛けた。

「ところで、
早瀬くん、いつからあの電車にいたの?」
相川が聞いてきた。

「オレ?相川たちより1個前。家の近くから乗ったから。相川が乗って来たとき、声、掛けたかったんだけど、ちょっと遠かったからできなくて。
 そしたらさ、相川『若宮』あたりで、キョロキョロして、顔色悪そうだったから、体調悪いのかなって。
 山崎、気づかなそうだったし。
で、ちょっと近づいたんだ、相川に。
そしたら、触られてるの、見ちゃって。」

「そうなんだ。本当にありがとう。あと1駅我慢しようと思ったんだけど、ちょっとキツかった。」

「でも、ごめんな、こんな駅に降ろしちゃって。」

 こんな駅で降りるつもりはなかったけど、相川と2人きりになれるチャンスなんて、めったにないと思うと、これはこれで悪くないかも...なんて思った。

 オレは、幸せに浸っていたが、やっぱり相川はそれほどでもないのか、途中下車した理由を考えていたようだった。

「体調悪くなって、途中下車しちゃったって、山崎くんに連絡しよう。変じゃないよね?うん、そうしよう。」

 え?山崎に連絡?
 オレは山崎にメッセージを送ろうとする相川をじっと見た。

「山崎とはメッセージやり取りするんだ。」
完全なる嫉妬。

「うん?」

「山崎とはよく連絡取るの?」
 若干、さっきより強めに聞いたが、あまり相川には響いていないようで。

「部活の連絡事項とか。」
メッセージを打ちながら相川が答えた。

「ま、オレも陸上部のことは山崎にしてたけど。」
「だよね。キャプテン、頼りになるよね。あ、あの時、陸上部のグループに早瀬くんも招待したら良かったね。」

 相川はわかってない。

「いや、そうじゃなくて。」
「じゃなくて?」

 数秒の沈黙を経て、オレは勇気を出して言った。
「相川のアドレス、教えてよ。」

 相川がオレを見る。

 2秒ほど、見つめ合っただろうか?

 ピロリン...
通知音がなったスマホに、すぐに相川は目を落とした。

「相川、オレにはアドレス、教えられない?」
いつになく、オレ、ガンガン行ってる。

「わ、私のアドレスなんて知っても...」
また謙遜している。

「相川のアドレスが知りたい。
そしたら相川に話したいとき、いつでも話せるじゃん。」

 相川の顔が真っ赤になってる。
 オレも体中、熱い。
 よくあんなこと言えたな、と自分でも恥ずかしくなる。

「私のアドレスで良ければ...」
ようやく相川がアドレス交換に応じてくれた。これでも断られたら、オレ、自信なくすよ。

「ありがとう、相川。」
心の中でガッツポーズ。

『まもなく1番ホームに電車が参ります。』
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