きみと3秒見つめ合えたなら

恋に落ちる

 その場から動けなかった。

 ずっと頭の中でさっきの光景が繰り返し流れている。

 なんで、キスなんてしたの?
 私の事、好きなのって、本気なの?

 桐谷くんはキスなんて慣れているのかもしれない。
 大したことではないのかもしれない。
やっぱりからかってる?

 でも、あんな桐谷くんの顔は初めて見た気がした。

 からかってるわけじゃないって信じたいのに、それが怖い。

 色々な思考が交錯する。


 今まで誰ともつき合ったこともないのに。

 なんであそこで目をつぶったのか、自分でもわからない。

 そして拒否することなく受け入れてしまった。

 唇と頭にまだ桐谷くんの感触が微かに残っている。



「あれ?絢音先輩!」
その声にびっくりする。

「あ、茉莉ちゃん...」
 見て、なかったよね?
 心臓の鼓動がさっきよりも速くなる。

「先輩、どうしたんですか?」

「ちょっと眠れなくて、外に出てたんだけど、そろそろ眠くなったから戻ろうかなってところ。」
 事実と嘘が混じり合う。
 見られてはないようだった。

「そうだったんですかー。
あー、先輩、それ私のウインドブレーカーじゃないですか?」

「あ、え?あ、ほんとだ。ごめん、茉莉ちゃん。探してた?」
 私はまるで今、気づいたかの様に言ってはみたが、ぎこちなくなかったかな?

「探してましたよー。先輩、もう。」
「ご、ごめんね。これ、返すね。」
 私はこれ以上、何か聞かれる前に、嘘がバレないうちに、足早に去った。

 桐谷くんはこのあと、茉莉ちゃんに会うんだよね?
 どうしよう。
とにかくドキドキが止まらなくて、眠れそうにない。


 布団に入っても、寝付けない。
 さっきの光景が頭の中を巡る中で、ラインの通知があったことを思い出した。

 スマホを見る。

 早瀬くんからだった。

 見たら、返信しなきゃならない。
 こんな気持ちの状態で、早瀬くんに何か返せるだろうか。
 既読スルーは失礼。
 未読?いや、それも...

 早瀬くんへの想い...が盛り上がっていたにも関わらず、桐谷くんが私の想いにストップをかけようとする。
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