きみと3秒見つめ合えたなら
「行かないで。先輩。」
振り返った先輩を見上げた。

「でも、茉莉ちゃんと約束してるんでしょ?」先輩は早口だった。

「まだ時間じゃないから。先輩といたい。」
自分でもびっくりするくらいストレートに言った。

「先輩?」
「な、なに?」
今日のオレは駆け引きなしに、思ったことを話している。

「相川先輩、合宿に来る前の電車、聖斗くんと降りてましたよね?」

「見てたの?おんなじ車両だったっけ?」
先輩が少し動揺しているようにみえた。
「違う。電車からホームにいる2人が見えた。」

「そうなんだ。うん。ちょっと...」
相川先輩が言いにくそうにしていたが、オレはここ数日のモヤモヤを払拭したくて、続けた。

「たまたまですか? もしかしてあの駅で降りる約束とかしてたんですか?」

「た、たまたまだよ。ほんと。」

「でもなんで聖斗くんがあそこにいて、相川先輩が体調が悪いって...山崎くんだっていたのに。」
なんで聖斗くんなんだよ。
まだ山崎くんだったら、こんなにイライラしないのに。


「実は...」
先輩はその日のことを教えてくれた。やはり辛かったのか、うつむいてしまった。

「ごめん、先輩。嫌なこと思い出させて。
でも、オレ、めっちゃ嫉妬するんですけど。」

「あの場にオレがいたら、先輩の事、オレが守ったのに。」

 今日のオレはどこまでもまっすぐで、正直な気持ちを相川先輩にぶつける。


「先輩、こっち見て。ちゃんとオレを見て。」


 うつむく先輩にオレは言った。
 とにかく、先輩の顔がみたい。
 オレだけをちゃんと見てほしい。

「先輩、オレ、好きなんです。」
気持ちが抑えきれなくなって、言ってしまった。

 1秒、2秒...

 先輩がオレを見つめる。
 
 3秒...

「桐谷くん...」

 もう、愛おしくて仕方がない。

 先輩がふと、瞬きをしたとき、

 オレは衝動的に先輩の唇にキスをした。
オレは自分からキスをしたのは初めてだった。

 このまま、ずっと...

 ピロリン...
 先輩のスマホから通知音がなり、先輩はオレから離れた。

 先輩は不思議そうにオレを見ていた。

「先輩、好きです。」

 オレはもう一度言った。
 何度でも言いたい。
 本当は抱きしめたい。

 だけど、そこは何故か理性が働き、抱きしめることはできなかった。

 先輩はずっとオレを見たまま、何も言わない。

 「『推し』はネタじゃないですから。本気で好きなんです。」

 かなり大胆なことをしたことに気づき始めたオレは、急に恥ずかしくなってきた。

「じゃあ、先輩、おやすみなさい。」
と言って、オレはずっと触れたかった先輩の頭をポンポンとして、その場を去った。

 今日、告白するつもりは、オレの予定にはなかった。
 もっと、距離を縮めてから...と思っていた。
 だって、先輩はオレの本気の想いにまだ気づいてないから。
 
 そうだよ。まだ、早すぎた...

 なのに、先輩に告白どころかキスまでしてしまった。
 オレの心臓はバクバクしている。

 部屋に戻っても寝付けなかった。

 なんで、今日、告白してしまったのだろう。絶対、ダメだよなぁ。
 なんで、キスしてしまったのだろう。でも、先輩に拒否はされなかった。
 
 明日、どんな顔して会えばいいんだよ。

 後悔と、数%の淡い期待が入り混じる複雑な感情がオレを包み込む。

 ...そしてオレは忘れてしまっていた。
茉莉から呼び出されていたことを。
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