きみと3秒見つめ合えたなら
「先輩、ここ座って。立ってるの、不安でしょ?」
 
 オレは先輩を不安にさせたくなくて、座席に座らせた。

「オレが守るって言ったでしょ。」

 オレの想いが通じるのは無理かもしれないが、もう少し、強がってみよう。オレのよくわからないプライドがそうさせた。

 オレは黙っている先輩の前で吊革を持って立っている。

「先輩?」
オレは勇気を振り絞って聞いてみた。
顔を見てないから、言えるのかもしれない。

「先輩の答え、まだ聞いてないんだけど。」
それでも緊張して、若干声が震えた。

 先輩はなかなか答えをくれない。
 やっぱり、だめかぁ。

『次は湊ー』
 
 次は乗り換えか。
 どうしよう。
 先輩、ちゃんと次もオレと乗ってくれるのだろうか...。人も多いし、はぐれそう。っていうか、逃げちゃうんじゃないか?

 そんなことを考えていた。

『湊ー。お乗り換えの方は3番ホームへ...』

「先輩、乗り換えだから...」
と言って、オレは先輩の手首をつかんで、引っ張った。強引だとは思ったが、嫌だったら、きっと振り払われるだろう。

 先輩は、オレに引っ張られながらも、後ろをついてきた。

 行きと違って電車は空いていた。

「絶対、逃げると思ったから...」
そう言って座席に並んで座り、オレは手を離した。

 電車を乗り換えても、先輩は無言だった。

 隣に座ると、昨日のことを思い出してしまう。

 さらに、先輩の横顔をチラッと見たら、我慢できなくて。

「もう1回、キスする?」

 半分本気、半分冗談...いや、100%本気で先輩に耳打ちした。

「え...」
先輩は、焦った感じで、顔の前で手をふっている。案の定、断られたけど、その仕草が、かわい過ぎる。

「焦ってるのも、かわいい。」
本当にすべてが愛おしくて、思ったことを伝えずにはいられなかった。

 もうオレの気持ちは止められない。

「返事は?先輩、オレの事、好きになってくれる?」

 なかなか先輩は返事をしない。
 嫌なのか?悩んでいるのか?

「何か不安?オレ、先輩のことちゃんと守るから、大丈夫。」



『春日野道ー。
左側のドアが開きますー。』

「あ、降りなきゃ。」
無言だった先輩が急に立って、
「じゃあ」とだけ言って、電車を足早に降りた。

 え?待って。
 急すぎて、オレは焦った。

 声をかけるより前に、先輩を捕まえようと、後ろから抱きしめてしまった。

 待って...本当はそう言いたかったが、とっさに言葉が出なかった。

 先輩から、離れるべきだとも思ったが、先輩の髪の香りが心地よく、腕を外すことができない。

 そしてひと呼吸おいて、先輩を抱きしめたままオレは言った。
「また、先輩逃げるから。ゆっくりでいいからオレの事、考えて。」

 これでも精一杯、気持ちを抑えたつもり。

 本当は「好きになって。好きって言って。」なんてわがままを言いたい。

 オレはようやく先輩の胸の前の手を解き、電車に駆け戻った。

 昨日といい、オレもなかなか大胆なことをするもんだと、心臓がドキドキする。

 あんなことをしておいて、この電車にのってる人の中には、オレたちを見ていた人もいるかもしれない...と思うと、とたん恥ずかしくなった。
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