きみと3秒見つめ合えたなら

うわさ話

 春合宿から2日間は部活が休みで、私は家で過ごしていた。

 ぼんやりすると、桐谷くんとの出来事を思い出してしまう。

 キスをしたこと
 抱きしめられたこと

 春合宿前の私には、どちらも無縁なことだったのに。

 私はとにかく考えないでおこうと、猛スピードで宿題を解く。

 数学も物理も簡単に答えが出るのに、桐谷くんへの答えは出ない。

 違う。本当は答えは出ているかもしれないのに。一歩が踏み出せない。


 桐谷くんのことでいっぱいで、早瀬くんからのメッセージもそのままだった。最低だ...私。

 開いてみる?

 ちゃんと、返信できるのかな。勇気を出して早瀬くんからのメッセージを開く。

『相川、おつかれさま。
明日で合宿終わり?気をつけて帰れよ。
オレは合宿で春休み終わりそう笑』

 早く返信すればよかった。
既読にもならないなんて、何かあったと思うよね。

 ごめんなさい、早瀬くん。

 私は1時間以上考えて、当たり障りのない返信をした。
『早瀬くん、おつかれさま。
無事家に帰ってきてるよ。
新学期、またよろしくね。』

 早瀬くんからの返信はなかった。
 メッセージをほったらかしにしちゃったら、さすがに嫌われてしまったかな。


 そして月曜日。
 部活に行けば、桐谷くんがいる。

 なんて答えようか。
 自分の素直な気持ちを伝えればいいだけなのに。
 あそこまでされたら、さすがに本気なのだと...思いたい。
 だけど、それでも、素直に「好き」と言う勇気が私にはない。


 しかし、部活での桐谷くんは、以前の桐谷くんとぜんぜん変わらなかった。
 それにホッとしている自分と、やっぱりどこか残念に思っている自分がいた。

 春休み中、一歩も踏み出せない私は、何ひとつ適切な解答を見つけられないまま、新学期をむかえる。
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