聖なる夜に新しい恋を
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「おっ、既読ついてるじゃん」
彼女の無言の反応に、柄にもなく頬が緩む。帰りの道中でも、数駅先の自宅に帰ってからも、彼女にメッセージを送っていたが、ちょくちょく見てくれているようだ。
本日二度目の施錠をして外に出たときには、もう雨は弱まっていて少しほっとした。これで転ぶこともないかな、なんてさっきまで一緒だった彼女のことを考えてしまった。
終電が迫ってきたからか、神楽坂に窮屈そうに咲いていた傘は散り散りになっていた。水の染み込んだ履き心地の悪いスニーカーのまま、家まで帰ってきたのだった。
(──嫌われた、よな。あの反応だと)
冷えた体をシャワーで温めながら、彼女のことを考える。
今まで女なんて、顔か美大という特殊経歴を目当てに向こうから寄ってきていた。女にはまず困らなかったが、ハイエナのようなそれらに嫌気が差していたのも事実。実際、大学を卒業してからは付き合いはおろか、ワンナイトのような男女の関係さえ無いままだ。ベタベタと粘着されるより、ひとりで慰めるほうがよっぽど気楽なのだ。
でも、彼女はそうじゃない。──あのメッセージのやりとりだと、意中の男がいるからだろう。あれを見て何故か苛立ったのだ。
正直、彼女をどうして気にするのか、理由なんてなかった。だとしても。
(あの時と同じ後悔だけは、したくない)
キュッとシャワーを止めて、頭を乱暴に拭いた。今日一日の行き場のない気持ちが、手には力となって出てしまう。
「っ、きたきたっ!」
部屋に戻ってスマホを見れば、『到着しました。本日はありがとうございました』と、業務的なメッセージが届いていた。相変わらずの調子だが、返信が来ていることに安堵する。
手早く『よかった!おやすみ』と返して、眠る猫のスタンプを追加で送った。
「んあー、寝れねー」
遠に日付を跨いだ時計を見ながら、ベッドに横たわる。遅くまで残業して体は疲れているというのに、いつぶりかわからない感情の高揚に、しばらくは眠りにつけなかった。