聖なる夜に新しい恋を

◆◆◆



「おっ、既読ついてるじゃん」

 彼女の無言の反応に、柄にもなく頬が緩む。帰りの道中でも、数駅先の自宅に帰ってからも、彼女にメッセージを送っていたが、ちょくちょく見てくれているようだ。



 本日二度目の施錠をして外に出たときには、もう雨は弱まっていて少しほっとした。これで転ぶこともないかな、なんてさっきまで一緒だった彼女のことを考えてしまった。
 終電が迫ってきたからか、神楽坂に窮屈そうに咲いていた傘は散り散りになっていた。水の染み込んだ履き心地の悪いスニーカーのまま、家まで帰ってきたのだった。


(──嫌われた、よな。あの反応だと)


 冷えた体をシャワーで温めながら、彼女のことを考える。

 今まで女なんて、顔か美大という特殊経歴を目当てに向こうから寄ってきていた。女にはまず困らなかったが、ハイエナのようなそれらに嫌気が差していたのも事実。実際、大学を卒業してからは付き合いはおろか、ワンナイトのような男女の関係さえ無いままだ。ベタベタと粘着されるより、ひとりで慰めるほうがよっぽど気楽なのだ。

 でも、彼女はそうじゃない。──あのメッセージのやりとりだと、意中の男がいるからだろう。あれを見て何故か苛立ったのだ。
 正直、彼女をどうして気にするのか、理由なんてなかった。だとしても。


(あの時と同じ後悔だけは、したくない)


 キュッとシャワーを止めて、頭を乱暴に拭いた。今日一日の行き場のない気持ちが、手には力となって出てしまう。


「っ、きたきたっ!」


 部屋に戻ってスマホを見れば、『到着しました。本日はありがとうございました』と、業務的なメッセージが届いていた。相変わらずの調子だが、返信が来ていることに安堵する。
 手早く『よかった!おやすみ』と返して、眠る猫のスタンプを追加で送った。


「んあー、寝れねー」


 遠に日付を跨いだ時計を見ながら、ベッドに横たわる。遅くまで残業して体は疲れているというのに、いつぶりかわからない感情の高揚に、しばらくは眠りにつけなかった。
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